ヴィーガン食と犬の健康
調査を行ったのはイギリス・ウィンチェスター大学健康福祉学部のチーム。2020年5月から12月までの期間、ソーシャルメディアやコミュニティグループを通じてアンケートを配布し、犬の食事内容と健康状態との関連性を統計的に検証しました。
飼い主の参加条件は18歳以上で少なくとも1年間犬を世話していることとされ、最終的に2,639名(女性92.4%+男性7.4%)から有効回答を得ました。またペット犬たちの食事内容は以下の定義によって区分されました。
飼い主の参加条件は18歳以上で少なくとも1年間犬を世話していることとされ、最終的に2,639名(女性92.4%+男性7.4%)から有効回答を得ました。またペット犬たちの食事内容は以下の定義によって区分されました。
フードタイプ
- 従来食加熱加工済の動物性成分を含んだ一般的なドッグフード/1,370名(54%)
- 生肉食加熱処理していない動物性成分を含んだドッグフード/830名(33%)
- ヴィーガン食動物成分を一切含まないドッグフード/336(13%)
動物病院受診頻度
病気でなくても受ける健康チェックのための受診を除くと、年に2回以上受診している犬が何らかの健康問題を抱えていると推測されます。そこで過去1年間で動物病院を複数回受診するリスクを比較したところ、統計的に従来食>ヴィーガン食>生肉食という格差が見られたといいます。
病院複数回受診リスク(2,520名)
- 従来食:1
- 生肉食:0.432
- ヴィーガン食:0.638
投薬歴
予防のための駆虫薬やワクチン接種以外の投薬は健康状態の悪化を示唆します。過去1年間における投薬歴を比べたところ、従来>生肉≒ヴィーガン食という格差が見られたといいます。
投薬リスク(2,536名)
- 従来食:1
- 生肉食:0.542
- ヴィーガン食:0.537
療法食への切り替え
療法食への切り替えは健康状態の悪化を示唆します。過去1年間におけるフードタイプの切り替えリスクを比較したところ、従来食が7%、生肉食が1%、ヴィーガン食が4%でリスク勾配は従来>生肉、ヴィーガン食>生肉だったといいます。
療法食切り替えリスク(2,536名)
- 従来食:1
- 生肉食:0.182
- ヴィーガン食:0.590
獣医師の客観的な健康評価
健康に問題なしを「1」、重篤な健康状態を「4」とした上で、担当獣医師による客観的な評価を数値に変換してもらったところ、従来食の平均が1062ポイント、生肉食の平均が1011ポイント、ヴィーガン食の平均が942ポイントで、健康状態が悪いと評価されるリスクに関し従来>ヴィーガン食という格差が見られたといいます。
獣医師の低評価リスク(2,062名)
- 従来食:1
- 生肉食:0.828
- ヴィーガン食:0.631
飼い主の主観的な健康評価
健康に問題なしを「1」、重篤な健康状態を「4」とした上で、飼い主がペット犬を主観的に評価したところ、従来食の平均が1347ポイント、生肉食の平均が1174ポイント、ヴィーガン食の平均が1154ポイントで、健康状態が悪いと評価されるリスクに関し従来>生肉≒ヴィーガン食という格差が見られたといいます。
飼い主の低評価リスク(2,530名)
- 従来食:1
- 生肉食:0.565
- ヴィーガン食:0.524
22の特定疾患
犬に多い22種類の特定疾患に関し、少なくとも1つの疾患を抱えるリスクを比較したところ、従来>生肉≒ヴィーガン食という格差が見られたといいます。
Knight A, Huang E, Rai N, Brown H (2022) , PLoS ONE 17(4): e0265662. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0265662
特定疾患リスク(2,062名)
- 従来食:1
- 生肉食:0.802
- ヴィーガン食:0.600
Knight A, Huang E, Rai N, Brown H (2022) , PLoS ONE 17(4): e0265662. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0265662
ヴィーガン食で病気予防?
健康悪化を示唆するバロメーターを比較したところ、生肉食もしくはヴィーガン食のリスクが統計的に有意なレベルで従来食よりも低くなる可能性が示されました。
因果関係は複雑
採用されたバロメーターが犬たちの健康状態を忠実に反映しているのであれば、確かに生肉やヴィーガン食の方が犬の健康に良いと言えそうです。しかし考慮しなければならない注意点もいくつかあります。
期待バイアス
生肉を与える飼い主の中には、一部のペットフードメーカーが掲げる「犬の本来の食事は生肉」というスローガンを妄信し、自然に近い食事が犬の健康に1番良いと思い込んでいる可能性があります。そういう飼い主たちは自分の選んだ選択肢が正解であってほしいという無意識的な期待感を抱いていますので、犬の健康状態を主観的に評価する際、 実際よりも高得点を与えてしまうかもしれません。
またヴィーガン食を与える飼い主の中には自分自身が健康志向のヴィーガンであり、犬にもそうあってほしいという期待を抱いている人もいることでしょう。そういう飼い主たちもやはり無意識的な期待バイアスによって犬の健康状態を実際よりも良好と捉える可能性があります。
またヴィーガン食を与える飼い主の中には自分自身が健康志向のヴィーガンであり、犬にもそうあってほしいという期待を抱いている人もいることでしょう。そういう飼い主たちもやはり無意識的な期待バイアスによって犬の健康状態を実際よりも良好と捉える可能性があります。
非難を避ける
生肉は病原体を媒介してしまう危険性があることから、日常的に与えることは好ましくないと考える獣医師もいます。犬に生肉を与える飼い主の中には「病院に行ったら非難されるのではないか?」という不安から受診を忌避してしまう人もいるでしょう。
またヴィーガン食を与える飼い主の中には「自分の倫理観をペットにまで押し付けている!」と非難されることを無意識的に避けようとするかもしれません。
自分に対する低評価を避けるため、そもそも動物病院に行かないという選択肢を選んだ場合、ペット犬の年間の受診回数が減って一見すると健康問題がないかのような印象を与えることがあります。
またヴィーガン食を与える飼い主の中には「自分の倫理観をペットにまで押し付けている!」と非難されることを無意識的に避けようとするかもしれません。
自分に対する低評価を避けるため、そもそも動物病院に行かないという選択肢を選んだ場合、ペット犬の年間の受診回数が減って一見すると健康問題がないかのような印象を与えることがあります。
犬の年齢
犬たちの平均年齢を食事別で見た場合、従来食が6.31歳、生肉食が5.52歳、ヴィーガン食が7.30歳とかかなりの開きが見られました。加齢とともに有病率が高まる疾患がありますので、従来食よりも若い生肉食では特定疾患のリスクが低く算定され、あたかも食事のおかげで健康が保たれているかのような印象を与える可能性があります。
栄養不足に注意!
今回の調査結果である「ヴィーガン食は犬の健康に良い」を受け、安易に飛びついてしまうと逆に健康を悪化させてしまう可能性がありますので要注意です。調査チームも「最も健康的でリスクが少ない食事は栄養的に完璧なヴィーガン食である(healthiest and least hazardous dietary choices for dogs, are nutritionally sound vegan diets)」という具合に、それとなく注意喚起を行っています。
同じチームが過去に行った別の調査では手作りであり市販のものであれ犬の栄養要求を完璧に満たしているヴィーガン食はなかったと報告されていますので、食餌選びが本末転倒にならないよう十分気をつける必要がありそうです。
同じチームが過去に行った別の調査では手作りであり市販のものであれ犬の栄養要求を完璧に満たしているヴィーガン食はなかったと報告されていますので、食餌選びが本末転倒にならないよう十分気をつける必要がありそうです。
犬たちへのヴィーガン食の給餌期間は平均2.83年(6ヶ月~7年)でした。それより長く給餌した場合の健康への長期的影響は十分に検証されていませんので、リスクを把握した上でフードを選択する必要があります。