血汗症とは?
血汗症(けっかんしょう)とは傷がないにもかかわらず皮膚の表面から血液が流れ出す奇病。世界最古の記述は紀元前4世紀頃の古代ギリシャの哲学者アリストテレスの著作の中にみられるとされ、16世紀のレオナルド・ダ・ヴィンチは出兵前に血の汗を流す兵士の逸話を記述したとされます。
正式な日本語訳すら確定していないまれな病気ですが、当ページ内では便宜上「haematidrosis」の意味を直訳して「血汗症」と呼称することにします。以下は人医学でわかっている疾患の概要です。
血汗症の症状
人医学における出血場所は額、頭皮、顔、目、耳、爪、へそといった皮膚の表面が大半です。通常は少量であるため出血多量で意識を失うということはありませんが、見た目がショッキングなため患者の精神面に悪影響を及ぼすことがあります。例えばイタリアの女性のケースでは発症してからうつ病やパニック障害の症状にも悩まされるようになり(:CNN, 2017)、ドミニカ共和国の女性のケースでは対人関係がギクシャクして自殺を図ったと報道されています(:Mirror, 2013)。
血小板数、血小板凝集能、凝血能、皮膚生検で異常は見られず、顕微鏡下の検査においても血管、汗腺、皮脂腺、毛包に異常が見られません(:Biswas, 2013)。
他人に伝染することがない自己限定的疾患 で、遺伝性はよく分かっていません。生まれたときから発症するわけではなく、思春期~成人期になってから突然発症することもあります。
他人に伝染することがない自己限定的疾患 で、遺伝性はよく分かっていません。生まれたときから発症するわけではなく、思春期~成人期になってから突然発症することもあります。
血汗症の原因
血汗症の治療
犬における血汗症の症例
このたびギリシアにあるテッサリア大学のチームは、獣医学会で初めてとなる犬における血汗症によく似た症例報告を行いました。概要は以下です。
15ヶ月年齢になるメスのピットブルテリアが、明確な外傷が認められない頭頸部の出血を主訴として来院。1回およそ2時間続く出血が3ヶ月間ほど続いているという。発症ごとに出血部位は微妙に異なっているものの、全ての状況に共通しているのは「興奮」。散歩に出た直後、遊んでいる最中、入浴の最中、飼い主の帰宅時などが多いことが判明した。
担当医が症状の確認のため犬を散歩に連れ出したところ、外出から5分後に確かに出血が見られた。患部の皮膚を調べたところ、充血して血液性の体液が毛包から染み出していることが視認できた。 さまざまな検査の結果、寒冷蕁麻疹、暑熱性蕁麻疹、皮膚描記症、全身性高血圧の可能性は除外され、さらに全血球計算、凝血能、ヘマトクリット、ヘモグロビン、白血球数、血小板数、プロトロンビン時間などにも異常は見られなかった。
ヒスタミンを原因とするアナフィラキシーを予防するため、取り急ぎ抗ヒスタミン薬(ヒドロキシジン)を2週間分処方したところ、来院から2日後に症状が落ち着き、その後1年間発症エピソードはなかったという。1年後に再発をみたものの、再びヒドロキシジンを2週間処方したところ、その後2年間寛解が得られた。
鑑別診断で脾臓や肝臓の肥満細胞腫、カルチノイド、褐色細胞腫を含むさまざまな発赤疾患が除外されたこと、および人医学における知見と共通項が多いことから考え、当疾患は「血汗症」に極めて近いものと推測される。抗ヒスタミン薬が奏功した理由としては、薬に含まれる抗不安作用が偶発的に交感神経系に作用した可能性が考えられる。 Excitement-Induced Cutaneous Bleeding (Haematidrosis-like) in a Dog
Evi I.Sofou, Anna Gavra, Manolis N.Saridomichelakis, Vet. Sci. 2021, 8(12), 327; DOI:10.3390/vetsci8120327
担当医が症状の確認のため犬を散歩に連れ出したところ、外出から5分後に確かに出血が見られた。患部の皮膚を調べたところ、充血して血液性の体液が毛包から染み出していることが視認できた。 さまざまな検査の結果、寒冷蕁麻疹、暑熱性蕁麻疹、皮膚描記症、全身性高血圧の可能性は除外され、さらに全血球計算、凝血能、ヘマトクリット、ヘモグロビン、白血球数、血小板数、プロトロンビン時間などにも異常は見られなかった。
ヒスタミンを原因とするアナフィラキシーを予防するため、取り急ぎ抗ヒスタミン薬(ヒドロキシジン)を2週間分処方したところ、来院から2日後に症状が落ち着き、その後1年間発症エピソードはなかったという。1年後に再発をみたものの、再びヒドロキシジンを2週間処方したところ、その後2年間寛解が得られた。
鑑別診断で脾臓や肝臓の肥満細胞腫、カルチノイド、褐色細胞腫を含むさまざまな発赤疾患が除外されたこと、および人医学における知見と共通項が多いことから考え、当疾患は「血汗症」に極めて近いものと推測される。抗ヒスタミン薬が奏功した理由としては、薬に含まれる抗不安作用が偶発的に交感神経系に作用した可能性が考えられる。 Excitement-Induced Cutaneous Bleeding (Haematidrosis-like) in a Dog
Evi I.Sofou, Anna Gavra, Manolis N.Saridomichelakis, Vet. Sci. 2021, 8(12), 327; DOI:10.3390/vetsci8120327
イエス・キリストが十字架刑に処せられる前夜に祈ったという「ゲツセマネの祈り」。「彼の汗は大粒の血の滴りのようになって地面に落ちた」という一節を、比喩的な表現ではなく血汗症として読み解く見方もあるようです。