C.カニモルサスによる劇症型敗血症例
「カプノサイトファーガ・カニモルサス」(C.canimorsus)は犬や猫の口内で検出されるありふれた菌の一種。免疫力が低下した人が感染すると敗血症(病原体への感染に対する免疫応答をきっかけにしてさまざまな臓器が機能不全に陥る病態)やDIC(播種性血管内凝固症候群=全身のいたる箇所ででたらめに凝固反応が起こる病態)といった重篤な症状に陥る危険性があるため、厚生労働省が「人獣共通感染症」の一つとして気をつけるよう呼びかけています。
このたび、静岡県にある藤枝市立総合病院救命救急センター救急科がこの菌を原因とする致死的な劇症型敗血症の症例報告を行いましたのでご紹介します。 患者は免疫力を低下するような習慣や持病を持たない66歳の男性。悲劇の始まりは、近所の飼い犬に左手親指の付け根を噛まれたことでした。軽い傷と判断した男性は患部を水洗いしただけでその他の治療は行わなかったといいます。 しかし翌日、倦怠感や38度の熱など、風邪に似た症状が現れました。この段階でも危機感を抱いていなかった男性はそのまま出勤。それから2日間、特別な医療的介入がない状態で過ごしたとのこと。
ところが咬傷から4日後、意識状態が急に悪化したことから家族が救急車を要請。隊員が到着した頃には全身にチアノーゼが現れ、救急車に収容後ほどなくして心肺停止となりました。救命措置により病院に到着してから10分後には心拍が再開したものの、ショック状態は回復せず、血液検査で重度の多臓器不全と進行した播種性血管内凝固症候群(DIC)が確認されました。死亡が確認されたのは病院到着から4時間後のことです。
家族の了承を得て行われた病理解剖では、母指球部の咬傷以外に病原巣と思われる部位が確認できませんでした。また血液培養のほか心嚢水、胸水、咬傷部組織・浸出液からカプノサイトファーガ・カニモルサスの遺伝子が検出されたことから、最終的にカプノサイトファーガ・カニモルサス敗血症との確定診断が下りました。 犬咬傷数日後に心肺停止で搬送されたCapnocytophaga canimorsus感染症による劇症型敗血症の1例
Motohiro Asaki, Takamitsu Masuda, Kazumi Uruchida et al., Nihon Kyukyu Igakukai Zasshi: Journal of Japanese Association for Acute MedicineVolume 31 Issue 1, DOI:10.1002/jja2.12435
このたび、静岡県にある藤枝市立総合病院救命救急センター救急科がこの菌を原因とする致死的な劇症型敗血症の症例報告を行いましたのでご紹介します。 患者は免疫力を低下するような習慣や持病を持たない66歳の男性。悲劇の始まりは、近所の飼い犬に左手親指の付け根を噛まれたことでした。軽い傷と判断した男性は患部を水洗いしただけでその他の治療は行わなかったといいます。 しかし翌日、倦怠感や38度の熱など、風邪に似た症状が現れました。この段階でも危機感を抱いていなかった男性はそのまま出勤。それから2日間、特別な医療的介入がない状態で過ごしたとのこと。
ところが咬傷から4日後、意識状態が急に悪化したことから家族が救急車を要請。隊員が到着した頃には全身にチアノーゼが現れ、救急車に収容後ほどなくして心肺停止となりました。救命措置により病院に到着してから10分後には心拍が再開したものの、ショック状態は回復せず、血液検査で重度の多臓器不全と進行した播種性血管内凝固症候群(DIC)が確認されました。死亡が確認されたのは病院到着から4時間後のことです。
家族の了承を得て行われた病理解剖では、母指球部の咬傷以外に病原巣と思われる部位が確認できませんでした。また血液培養のほか心嚢水、胸水、咬傷部組織・浸出液からカプノサイトファーガ・カニモルサスの遺伝子が検出されたことから、最終的にカプノサイトファーガ・カニモルサス敗血症との確定診断が下りました。 犬咬傷数日後に心肺停止で搬送されたCapnocytophaga canimorsus感染症による劇症型敗血症の1例
Motohiro Asaki, Takamitsu Masuda, Kazumi Uruchida et al., Nihon Kyukyu Igakukai Zasshi: Journal of Japanese Association for Acute MedicineVolume 31 Issue 1, DOI:10.1002/jja2.12435
犬に噛まれたら病院へ!
カプノサイトファーガ・カニモルサスは基本的に免疫力が低下した人において重症化しやすいとされています。具体的な因子は脾臓摘出、糖尿病、アルコール多飲、ステロイド使用、免疫抑制剤使用、幼齢、老齢などです。しかしとりわけ不健康でも、免疫力が低下したわけでもない人において重症化する例が世界中でちらほら報告されています。
敗血症は抗生剤による治療が行われるまでの時間が長引けば長引くほど予後が不良になるとされています。症例報告を行った医療チームは、犬や猫に噛まれた場合、速やかに医療機関を受診して適切な洗浄・切開・デブリードマンなどの処置を行い、予防的に抗生剤を投与することが重要であると強調しています。
C.カニモルサス菌の重症例
- イギリス(2016年)犬の唾液に含まれるカプノサイトファーガ菌が傷口から体内に侵入した男性~6週間の昏睡と5ヶ月間の入院を経て生還するも、腎臓がスタボロに(:Mirror)。
- イギリス(2016年)ゴールデンレトリバーの子犬に手を噛まれた男性~敗血症が悪化して右腕切断を余儀なくされる。医師が誤診したとして国民保健サービスとの訴訟問題に発展(:DailyMail)。
- 米ウィスコンシン州(2018年)傷口から侵入したバイ菌が原因と思われる敗血症で四肢の切断を余儀なくされた男性。原因は犬の口内に生息するカプノサイトファーガカニモルサス菌か?(:People)
- 米オハイオ州(2019年)バケーションから帰った飼い主の女性を犬が熱烈に歓迎→翌日、急な発熱により入院→敗血症のため四肢の切断を余儀なくされる。原因は犬の唾液に含まれていたカプノサイトファーガカニモルサス菌(:NYP)。
敗血症は抗生剤による治療が行われるまでの時間が長引けば長引くほど予後が不良になるとされています。症例報告を行った医療チームは、犬や猫に噛まれた場合、速やかに医療機関を受診して適切な洗浄・切開・デブリードマンなどの処置を行い、予防的に抗生剤を投与することが重要であると強調しています。