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大型犬よりも小型犬の方がトイレのしつけが難しいというのは本当か?

 大型犬よりも小型犬の方がトイレのしつけが難しいとされていますが、この風説は本当なのでしょうか?700人を超える犬の飼い主を対象としたアンケート調査により、いくつかの傾向と対策が見えてきました。

トイレのしつけ・体型別の成績

 調査を行ったのはアメリカ・ヴァージニア州にある犬の行動専門コンサルタント「Veterinary Services of Hanover」。行動修正を専門とするクリニック及びインターネット(主にSNS)を通じて一般の飼い主に協力を仰ぎ、犬の体の大きさとトイレのしつけとの関係性を検証しました。具体的には「大型犬よりも小型犬の方がトイレのしつけが難しい」という風説の真偽を検証することです。 一般的に大型犬より小型犬のほうがトイレのしつけが難しいと言われている  臨床上健康な犬の飼い主合計735人から得られたアンケート調査結果を元に統計的な計算を行ったところ、以下のような傾向が浮かび上がってきたと言います。なお「トイレのしつけができている」の定義は、飼い主が定めた場所にコンスタントに排泄ができ、トイレの失敗は多くとも2ヶ月に1度というものです。また小型犬は9kg未満、大型犬は18kg以上で、9~18kgの層は小型犬と大型犬のちょうど中間にある中型犬として分析からは除外されています。
トイレのしつけ・体型別の特徴
  • 小型犬(235頭のうち66.8%)よりも大型犬(500頭のうち95.0%)の方がトイレのしつけができている
  • 専門家による公式なトレーニング受けていた小型犬のうちトイレのしつけができていた割合は78%
  • 上記トレーニングを受けていなかったときの割合は56%
  • 大型犬も専門家のトレーニングで粗相の割合は減ったが統計的に有意とまではいかなかった
Preliminary Assessment of Differences in Completeness of House-training Between Dogs Based on Size
Amy Learn, VMD, Lisa Radosta, DVM, DACVB, Amy Pike, DVM, DACVB, Journal of Veterinary Behavior, DOI:10.1016/j.jveb.2019.08.003

小型犬はなぜトイレが苦手?

 トイレのしつけができている犬の割合に関し、大型犬が95%だったのに対し小型犬が66.8%と大きな隔たりを見せました。「大型犬よりも小型犬の方がトイレのしつけが難しい」という風説にはそれなりの根拠があるのかもしれません。一例としては以下のような原因が考えられます。
トイレのしつけに差が出る原因
  • 解剖学的な要因✅小型犬の方が代謝が盛んで膀胱が小さいためおしっこがたまりやすく、粗相につながりやすい
  • 屋外へのアクセス頻度✅大型犬の方が運動量が多く頻繁に散歩に連れ出されるため、屋外で排泄をすませる機会が増えて室内で粗相をする頻度が減る(※当調査における屋外排泄率は小型犬が66.2%、大型犬が94.8%)
    ✅室内で粗相をした時の被害は大型犬の方が甚大だから飼い主が頻繁に外に連れ出そうとする
  • しつけの真剣度✅室内で粗相をした時の被害を考えると、小型犬の飼い主より大型犬の飼い主の方が真剣にトイレトレーニングを行う
    ✅粗相に限らず問題行動(無駄吠え・噛みつきetc)を起こした時の被害が大きくなるため、大型犬の飼い主はしつけを慎重かつ丁寧に行い、専門家に委託する割合も高い
  • 先天的な特質✅ゴールデンレトリバーやジャーマンシェパードなどは小型犬よりも物覚えが良く、その分トイレトレーニングを吸収しやすい
    ✅小型犬の方が大型犬よりも攻撃的で興奮しやすくまた不安や恐怖心を抱きやすいため、うれションなどのおもらしが多くなる(小型犬症候群)
    ✅小型犬のほうが片足を上げて行うマーキング行動がそもそも多い
  • 犬の来歴小型犬はペットショップで購入される機会が多いため、ショーケースの中に閉じ込められてトイレの躾が十分になされていない

トイレのしつけは正の強化で

 不適切な排泄には、トイレ以外の場所でお漏らしをしてしまう「粗相」と柱など垂直な対象物におしっこをかける「マーキング」とがあります。後者のマーキングには不妊手術の有無が大きく影響しますが、当調査ではこの変数がなぜか含まれていませんので、大きな欠点と言えるでしょう。先に「予備的な知見」と表現したのはそのためです。
 過去に行われた調査では小型犬の方が足を上げて高い場所におしっこを出す傾向が強いとされています。大型犬と比較し、小型犬の方が30%ほどしつけの完了率が低かった理由には、この体型特有の行動特性が関わっているのかもしれません。 おしっこをするときに後ろ足を上げやすい犬の特徴は? 犬がおしっこをするときに上げる足に側性(利き足)はない  当然の話ですが、トイレのしつけ行なった人ほど粗相の頻度が減るという傾向が確認されました。小型犬に限っては専門家によるトレーニングを受けている犬(78%)のほうが受けていない犬(56%)よりも2割ほど成績が改善するようです。「専門家によるトレーニング」の具体的な内容までは明記されていないものの、嫌悪刺激を避けて強化刺激を用いる「正の強化」であることは言うまでもありません。2002年に12ヶ国に暮らす犬の飼い主を対象として行われた調査では、犬を飼育放棄した人のうちおよそ半数が「粗相した場所に鼻を押し付ける」とか「しつけ方がわからない」と回答したそうです(Scarlett et al., 2002)。嫌悪刺激を用いたしつけや、そもそもしつけをしない怠慢が、犬の飼育放棄につながるという因果関係が見て取れます。
日本国内にあるインターネットの Q & A サイトを見る限り、今もなお「鼻面押し付け系」を推奨している人がいるようです。この種のしつけは犬のストレスを高め、逆にトイレの失敗率を高めてしまう危険性がありますので、正しい知識と手順に則った訓練を施すことが強く推奨されます。 犬のトイレのしつけ 犬のトイレの失敗をしつけ直す