詳細
調査を行ったのはイギリス・リバプール大学が中心となったチーム。2016年1月から2017年3月の期間、動画共有サイトYouTubeにアップロードされている動画(英語、ポルトガル語、フランス語圏)の中から、犬が人を噛む状況とらえたものだけをピックアップし、咬傷の先行条件になっているものや咬傷の度合いを高める要素が何であるかを検証しました。
143本の動画から「咬傷事故が起こった前後の状況」「咬傷の重症度」「被害者と犬の基本属性」を、そこからさらに選抜した56本の動画から「咬傷事故に至るまでの細かな流れ」を解析したところ、合計362件の咬傷事故から以下のような傾向が見えてきたと言います。
犬の基本属性
犬種
- 雑種=47頭(32.87%)
- チワワ=13頭(9.09%)
- ジャーマンシェパード=11頭(7.69%)
- ピットブル=11頭(7.69%)
- ラブラドールレトリバー=6頭(4.2%)
体の大きさ
- 小型=37頭(25.9%)
- 中型=39頭(27.3%)
- 大型=67頭(46.9%)
攻撃の持続時間
- 噛み付きが1秒未満=49.65%
- 噛み付きが3秒未満=74.13%
咬傷被害者の基本属性
性別
- 男性=102人(71.3%)
- 女性=41人(28.7%)
年齢層
- 幼児=27人(18.9%)
- 子供=50人(35.0%)
- 大人=66人(46.2%)
噛まれた部位
- 顔や頭=15人(10.5%)
- 四肢=107人(74.2%)
- その他=7人(4.9%)
- 複数箇所=14人(9.8%)
怪我の重症度
- 1~5=83人(58.0%)
- 6~10=28人(19.6%)
- 11~15=20人(14.0%)
- 16超=12人(8.4%)
噛み付いた犬の特徴
噛み付きの30秒ほど前
- 噛み付きの30秒前くらいから怖じ気づいたように体を硬直させる
- 噛み付きの27秒前から姿勢を低くかがめる
- 噛み付きの34秒前から耳の位置がニュートラルからずれる
- 噛み付きの30秒前くらいからあくびやブルブルが散発的に観察される
噛み付きの直前
- 素早いうろつきが増えた
- 特に噛み付く直前では犬の方からの熱心なコンタクトが見られた
- うなりが増えた
- 沈黙や吠え声が減った
- ジャンプやゆっくりとしたうろつきが減った
- 唇舐めや前足上げは明確なパターンを見せなかった
- プレイバウ、座る、寝そべるという動作は明確なパターンを見せなかった
噛みつかれた人の特徴
- 噛み付きの35秒前くらいから覆い被さるように立つ
- 噛み付きの21秒前からなでる、抑え込むといった行動がとりわけ多く見られた
- 21秒前までは犬に向かっていく行動が増えた
- 9秒前からは逆に遠ざかる行動が増えた
- 15秒前から笑い声が増えた
- ハグ、叩く、押す、引っ張るといった行動に明確なパターンは見られなかった
- キス、物を使って叩く、蹴る、被毛を引っ張るといった行動は頻度が低かった
- 犬を触るときは手足を用い、触る場所に明確なパターンはなかった
- 咬傷の平均的な重症度は5.61
- 文脈によって重症度に変化は見られなかった
- 公共の場所や犬の縄張り内、痛みを伴う交流においては重症度が高まる傾向が見られた
Sara C. Owczarczak-Garstecka et al., Scientific Reportsvolume 8, Article number: 7147 (2018), doi:10.1038/s41598-018-25671-7
解説
犬に噛みつかれる場所としては手足が74.2%と圧倒的に多いことが判明しました。人間が犬を触るときはもっぱら手足を使うということと、口の中に入る大きさであるということが、この部位の受傷率を高めているのでしょう。噛み付きの4件中3件は3秒未満で終了するので、万が一犬に襲われてしまった時は「首と顔をかばってダルマさんのように3秒間丸くなる」のが効果的だと考えられます。
幼児と子供が咬傷被害者の54%を占め、顔や首を噛まれるケースが大人よりも多く見られました。幼い頃から基本的な予防法を知っておけば、顔に一生残るような傷を負わなくて済むでしょう。また犬と子供が接する状況においては、親を始めとする大人がしっかりと犬の様子を観察し、子供との距離を適切にコントロールしてあげる必要があります。
チワワによる咬傷
非敵対的な状況における咬傷に関し、小型犬43%、中型犬17.95%、大型犬20.9%という開きが見られました。「非敵対的な状況」には「なでる、キスをする、覆いかぶさる、頭の上に手を伸ばす、体に向かって手を差し伸べる、抱きしめる、話しかける、犬とともに歩く」などが含まれます。頻繁に見られた犬種の中にはチワワが9.1%という比較的高い比率で確認された事実と併せて考えると、小型犬ほど人間の何気ない行動を脅威として感じている可能性が高いのではないでしょうか。ただし小型犬の場合、たとえ噛みつかれたとしても大怪我に発展するケースが少ないため、「おチビちゃんよる可愛らしい反抗」として扱われ、犬の感じているストレスが軽視されている危険性もあります。
噛みつかれる人では噛み付きの35秒前くらいから、「犬の上に覆い被さるように立つ」という行動が多く観察されました。また「なでる」「抑え込む」といった行動も増える傾向を見せました。こうした事実から、人間による不快な接触によって犬がストレスを感じたとしても、いきなり噛み付く事はないと考えられます。噛み付く代わりに、攻撃行動の30秒位前から「怖じ気づくように体を固くする」「姿勢を低くする」「耳の位置が変化する」といった警告サインを出している可能性が示されましたので、咬傷事故予防のヒントになるでしょう。
犬の攻撃性のはしご
- 噛み付く!
- 歯をカチッと鳴らす
- うなる
- 動きを止める・にらむ
- 体を屈める・足を上げる
- しっぽを巻き込む・腰をかがめる
- ほふく前進・耳を後ろに倒す
- その場から立ち去る
- 体の向きを変える・座る・前足で触る
- 顔をそらす
- あくび・まばたき・鼻を舐める
幼児と子供が咬傷被害者の54%を占め、顔や首を噛まれるケースが大人よりも多く見られました。幼い頃から基本的な予防法を知っておけば、顔に一生残るような傷を負わなくて済むでしょう。また犬と子供が接する状況においては、親を始めとする大人がしっかりと犬の様子を観察し、子供との距離を適切にコントロールしてあげる必要があります。