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犬に対する電気ショックカラーの使用は虐待・犯罪

 犬の首輪に電流を流して問題行動をしつけなおすという「電気ショックカラー」に関し、欧州医療動物学協会(ESVCE)が科学的な証拠に基づいた検証を行い「百害あって一利なし」と厳しく非難しています(2018.3.14/欧州)。

詳細

 「電気ショックカラー」(electronic shock collar)は犬の問題行動を矯正することを目的に、首輪に不愉快な電流刺激(嫌悪刺激)を流すしつけアイテムのこと。代表的なものとしては、以下の3種類があります。
電気ショックカラー
  • 自動電気ショックカラー犬が吠えたときの喉頭の振動を感知して自動的に電気が流れる
  • 電流フェンス犬の首輪から発信されているシグナルを地中に埋められたセンサーが感知し、自動的に首輪に電流を流す。「見えないフェンス」とも
  • 手動電気ショックカラー無駄吠えや飛びつきなど、犬が望ましくない行動をとったタイミングで人間が手動でスイッチを入れることで電流が流れる。シトロネラなど犬が嫌がるスプレーを噴霧するタイプもあり
 上記したようなアイテムは、一部の国を除いたヨーロッパ各地で簡単に入手できるのが現状です。またメーカーの言い分は「電流の強度を自由に調整することができて効果的」「費用が安い」「他の方法と比較して電流による刺激は長期的に見れば大した問題では無い」「他の方法でだめだった問題行動も修正できる」というものですが、こうした主張が科学的に立証された訳ではありません。 効果が科学的に実証されていない電気ショックカラーは法律で禁止される流れにある  欧州医療動物学協会(ESVCE)は2016年、専門の調査委員会を設置してこれまでに発表された電気ショックカラーに関する科学的なデータを検証しました。そして翌2017年、「Annual General Meeting」で公開されたのがESVCEの正式な立場表明です。内容を一言で表すと電気ショックカラーは百害あって一利なしとなります。概要は以下。
電気ショックカラーの弊害
  • 電流の適切な強度を調整することは難しい
  • 個々の犬に合わせた調整は不可能
  • 古典的条件付けにより全く無関係な刺激を結びつける
  • パーフェクトなタイミングが難しい
  • 虐待目的で使用される可能性がある
  • 身体に対するリスク
  • ストレス関連行動が増える
  • 罰によるその他の一般的副作用
 ESVCEは「他の方法と比較して有効であると結論付けた調査は1つもない」とし、電気ショックカラーの安易な使用を激しく糾弾しています。また不安、恐怖、フラストレーション、痛みが原因の問題行動に対して使用すると、根本的な原因が放置されて逆に問題行動が悪化するとも。
Electronic training devices: discussion on the pros and cons of their use in dogs as a basis for the position statement of the European Society of Veterinary Clinical Ethology (ESVCE)
Sylvia Masson, Silvia de la Vega, et al., Journal of Veterinary Behavior(2018), doi.org/10.1016/j.jveb.2018.02.006

解説

 オーストリア、デンマーク、フィンランド、ドイツ、ノルウェー、スロベニア、スウェーデンなどでは、電気ショックカラーの使用に制限を設けるか使用自体を禁止する法律を制定しています。またイギリスにおいてはウェールズが法律によって使用を禁止しています。しかしその他の国や地域においては、インターネットなどを介して誰でも簡単に入手できるのが現状です。 電気ショックカラーは「自称」犬の専門家に愛用される  電気ショックカラーは今もなお、「すぐに問題行動が直る」というメーカーの宣伝文句を鵜呑みにしている人、犬のしつけにお金をかけたくない人、長ったらしい行動矯正プログラムを実践するのが面倒な人、犬の行動理論を理解していない一部のドッグトレーナーによって頻繁に用いられています。しかしESVCEの検証により、電気ショックカラーには明確な効果がないばかりか、以下に述べるような様々な弊害を引き起こす危険性があることが明らかになりました。
電流の適切な強度を調整することは難しい
 犬の首元に加えられる電流の強さは、持続時間、電極のサイズ、湿度、被毛の長さ、皮膚のコンダクタンス、皮下脂肪の厚さなど、非常に多くの要因によって左右されるため、問題行動を抑止するための適切な強度を調整することは難しい。
個々の犬に合わせた調整はまず無理
 上記した理由により、個々の犬に合わせた電流の調整はほぼ不可能と言ってよい。結果として刺激が強くなりすぎたり弱すぎたりする。
 電流が強すぎると、犬に対して恐怖、痛みを与え、結果として攻撃性、病的恐怖症、ストレスが増加してしまう。これは動物の福祉を著しく損ねると同時に学習能力を低下させる無意味な行動である。
 逆に電流が弱すぎるとすぐに馴化(慣れ)が生じ、問題行動の強制にはつながらない。結果として何度も繰り返しショックを与えたり、強い電流を加えてしまうようになる。
不快感と全く無関係な刺激を結びつける
 不快な電気刺激を受け取ったとき、たまたま自分の周辺にあった中性的な刺激と不快感とを古典的条件づけを通して結び付けてしまう危険性がある。例えば「見えないフェンス」に近づきすぎてショックを受けたとき、たまたまフェンスの近くにいた人と電気ショックとを結び付けてしまい、以降、人間に対して攻撃性を示すようになるなど(Polsky, 2000)。
パーフェクトのタイミングが難しい
 自動電気ショックカラーの場合、機械の不調で電流の流れるタイミングがずれてしまうことがある。手動ショックカラーの場合、学習理論を理解していない素人が用いると、すっとんきょうなタイミングで不快刺激を与えてしまうことがある。結果として、犬は何に対して罰が与えられたのかわからなくなり、学習性無力に陥る。例えば十分な訓練を積んでいない自称ドッグトレーナーが使ったとき副作用の危険性が高まるなど(Salgirli et al., 2012)。
虐待目的で使用される可能性がある
 犬の問題行動をしつけることが目的ではなく、犬に対する虐待やいたずらが目的で使用する輩が出てくる。
身体に対するリスク
 電気ショックカラーの使用により、唾液中のコルチゾール濃度や心拍数といったストレスの徴候が増加することが確認されている。また、首に接している電極によるやけどや皮膚の壊死の危険性もある。
ストレス関連行動が増える
 泣きわめく、舌なめずりをする、しっぽを下げるといった恐怖や不安の兆候がトレーニング以外の状況においても残ってしまう。これは、犬に対して慢性的なストレスがかかっているということであり、福祉を著しく損なう。例えば電気ショックカラーをつけてトレーニングを受けた犬に訓練終了から3ヶ月後、通常のカラーつけただけで唾液中のコルチゾールが高まった(DEFRA AW1402, 2013)とか、最も弱い電流レベルで訓練を受けた犬でさえ、訓練後には姿勢を低くする、前足を上げる、舌を出す、あくびをする、呼吸が荒くなる、探索行動が減るといった慢性ストレスの兆候が見られたなど(Cooper et al., 2014)。
罰による一般的副作用
 罰(嫌悪刺激)を用いることによる一般的なデメリットや副作用が生じる。例えば力ずくでを押し付ける方法はストレスを増大させ、犬の福祉を著しく低下させる(Fernandes et al., 2017)、敵対的なしつけ方法は犬の攻撃性を増加させる(Herron et al., 2009)、罰を用いたトレーニングは攻撃性を高める (Beerda et al., 1998; Herron et al., 2009)、恐怖と不安を高める(Arhant et al., 2010)、問題行動を増やす(Blackwell et al., 2008)、飼い主との関係性を悪化させる(Hiby et al., 2004)、犬の福祉を低下させ人間とのチームパフォーマンスを低下させる(Haverbeke et al., 2008)など。
 EU圏内の多くの国では犬のしつけに関する法が整備されておらず、「自称ドッグトレーナー」が多く存在していると言います。その結果、「テレビに出ているような自称・犬の専門家の言動を科学的な見地から検証した所、根本的な知識が欠落しており、やっていることには効果がない(Benett, 2013)」、「犬の行動から心的な状態を予測する能力に関し素人と犬の専門家の違いは見られなかった(Scott & Bowen , 2016)」、「最も売れている犬のしつけに関する本TOP5を検証した所、互いに矛盾する内容であることが少なくなかった(Brown et al., 2017)」といったカオスが生じてしまっています。
 電気ショックカラーは、犬の行動学や学習理論を理解していない素人のみならず、上記したような科学的な最新情報をフォローしていない自称犬の専門家によっても使用されていると言います。こうした現状を憂慮したESVCEは代替案として「正の強化を用いた教育プログラムの推進」「販売に対する法規制」「違反者に対する厳しい罰則の設定」などを提案しています。
 法整備が進んでいない日本においてもヨーロッパと同様のカオスがあります。例えば犬に対する体罰を甘いナレーションで美化する公共放送、「体で覚えさせろ」という30年前の訓練法に固執する自称犬の専門家、そして宗教的な熱心さでそうした体罰を支持する視聴者などです。今回出された欧州医療動物学協会(ESVCE)の立場表明は、先人が残してくれた山ほどの失敗例をしっかりと把握し、知識をアップデートすることの重要性を痛感させてくれます。 犬の訓練に苦痛や不快感を与える嫌悪刺激を用いてはいけない 犬のしつけには罰が必要?