詳細
断尾(tail docking)とは生まれたばかりの子犬のしっぽを切断してしまう手技のこと。通常は獣医師が行いますが、出費を削るためにブリーダー自身が秘密裏に行うことも少なくありません。現代における目的は多くの場合「犬種標準に合わせる」という美容上のものです。
ニュージーランド・マッセー大学のDavid J. Mellor氏は、生まれたばかりの子犬が本当に痛みを感じているのかどうかに関する包括的なレビューを行い、一部の獣医師やブリーダーが信奉している「生まれたばかりの子犬は痛みを感じていないから断尾は動物虐待に当たらない!」とする主張に正当性があるかどうかを検証しました。その結果、子犬が痛みを意識的な不快感として感じることができるようになるのは、生後14日目くらいからであるという結論に至ったと言います。つまり獣医師やブリーダーの主張にある程度の正当性があるということです。こうした結論の土台にある科学的根拠(エビデンス)は以下。
動物には神経学的に見て「成熟型動物」と「未成熟型動物」とがおり、犬は「未成熟型動物」の方に属する。
具体的にはウシ、ヒツジ、ブタ、ヒトなど。
具体的にはイヌ、ネコ、フェレット、ハムスター、ラット、マウス、ウサギなど。 ラットの子獣を用いた調査では、皮膚に切り込みを入れたところ大脳辺縁系の発火は見られるものの大脳新皮質の体性感覚野に電気的な反応は見られなかったといいます。また子犬を対象とした調査では、「しっぽをつねる」という刺激に対し金切り声をあげたりモゾモゾ動いたりして反応するものの、生後7日齢未満の場合は大脳新皮質における電気的な変化が見られなかったとされています。わずかな電気的反応が見られるようになるのは生後7日齢以降で、はっきりとした反応として現れるのは生後14~28日齢に達してからだとも。
Mellor氏によると、神経学的に犬はラットと同じ「未成熟型動物」に属するため、生後3~5日のタイミングで行われる断尾によって痛みを感じている可能性は少ないとしています。これだけ聞くと断尾推進派が万歳三唱しそうですが、仮に子犬が断尾による痛みを感じていかなったとしても、断尾という行為を正当化することはできないと但し書きを添えています。理由は以下に述べるような様々なデメリットが最終的には犬の福祉を大きく損なってしまうからです。
David J. Mellor, Animals 2018, 8(6), 82; doi:10.3390/ani8060082
成熟型動物
原始的な脳である大脳辺縁系と新しい脳である大脳新皮質の間の神経ネットワークがはある程度完成しており、生まれた時から末梢神経からの痛み刺激を大脳新皮質で処理することができる。つまり「痛い!」という意識を持つことができる。具体的にはウシ、ヒツジ、ブタ、ヒトなど。
未成熟型動物
新しい脳である大脳新皮質自体が未発達で、なおかつ原始的な脳である大脳辺縁系との神経ネットワークも未成熟なため、末梢神経からの痛み刺激は大脳辺縁系で止まったまま新皮質には伝達されない。神経ネットワークが完成して痛みを体感できるようになるのは生まれてから14日目以降。つまり生後2週齢未満の子獣は「痛い!」という意識を持つことができない。具体的にはイヌ、ネコ、フェレット、ハムスター、ラット、マウス、ウサギなど。 ラットの子獣を用いた調査では、皮膚に切り込みを入れたところ大脳辺縁系の発火は見られるものの大脳新皮質の体性感覚野に電気的な反応は見られなかったといいます。また子犬を対象とした調査では、「しっぽをつねる」という刺激に対し金切り声をあげたりモゾモゾ動いたりして反応するものの、生後7日齢未満の場合は大脳新皮質における電気的な変化が見られなかったとされています。わずかな電気的反応が見られるようになるのは生後7日齢以降で、はっきりとした反応として現れるのは生後14~28日齢に達してからだとも。
Mellor氏によると、神経学的に犬はラットと同じ「未成熟型動物」に属するため、生後3~5日のタイミングで行われる断尾によって痛みを感じている可能性は少ないとしています。これだけ聞くと断尾推進派が万歳三唱しそうですが、仮に子犬が断尾による痛みを感じていかなったとしても、断尾という行為を正当化することはできないと但し書きを添えています。理由は以下に述べるような様々なデメリットが最終的には犬の福祉を大きく損なってしまうからです。
断尾によるデメリット
- 大脳辺縁系によるストレスホルモン放出
- 神経腫による成長してからの痛覚過敏と慢性痛
- ボディバランスがうまく取れなくなる
- 脊柱の安定性が損なわれる
- 背中に付着している筋肉の土台がなくなる
- 排便がうまくできなくなる
- 骨盤底の安定性が損なわれる
- メス犬では尿失禁が起こりやすくなる
- 手術自体による合併症(出血、壊死、感染、敗血症、髄膜炎、死亡)リスク
- 犬同士のコミュニケーションができなくなる
- 人間とのコミュニケーションができなくなる
David J. Mellor, Animals 2018, 8(6), 82; doi:10.3390/ani8060082
解説
神経学的に見たとき「犬は生後14日齢になるまで痛みを体感できない」という一瞬ゾッとするような可能性が見えてきました。しかしこの知見は多くの人にとって直感に反するものではないでしょうか?なぜなら、断尾を受けている子犬では大きな金切り声を上げたり逃げ出そうとする反応が見られるからです。Mellor氏はこうした反応に関し、大脳辺縁系による自動的なリアクションの一種であり、保護者とはぐれた子獣が出す救難信号に近いのではないかと推論しています。つまり必ずしも痛みの証拠ではないということです。
例えばしっぽが長い犬と短い犬のコミュニケーション観察したところ、長い犬における攻撃的な交流が12%だったのに対し、短い犬の場合は49%に達したとされています。
また美容目的で断尾される犬および衛生上の目的で断尾されるブタやヒツジでは、しっぽの切断部分(テイルスタンプ)に神経腫が形成されることが報告されています。断尾を施してから1~4年後の犬で見られる自傷行動は、神経腫による痛覚過敏と慢性痛によって引き引き起こされていると推測されています。なお「断尾神経腫」(Tail dock neuroma)と呼ばれるこの腫瘍は外科的に切除する必要がありますが、まず間違いなく生後14日齢を過ぎてから発生しますので手術に伴う痛みは免れません。 Mellor氏は「犬の年齢にかかわらず、医療的な目的を持たない断尾は禁止されるべきである」と主張しています。そして法律や規則などの文章に記載する際は最新の科学的知見に基づき、子犬の日齢(週齢)や痛みの有無に関する言及を割愛し、ただ単純に「医療的な目的を持たない断尾を禁ずる」とか「美容目的の断尾は犬にとって必要な器官を取り除く不要な施術である」というものにしたほうがよいとも。
【閲覧注意】犬の断尾(切断法)
一見すると断尾推進派に見えるMellor氏の最終的な結論は、仮に生後間もない子犬たちが断尾による痛みを感じていなかったとしても、断尾という慣習を正当化することはできないというものです。理由は先述したように、数多くのデメリットが成長してからの犬の福祉に大きな悪影響を及ぼすと考えられるからです。例えばしっぽが長い犬と短い犬のコミュニケーション観察したところ、長い犬における攻撃的な交流が12%だったのに対し、短い犬の場合は49%に達したとされています。
また美容目的で断尾される犬および衛生上の目的で断尾されるブタやヒツジでは、しっぽの切断部分(テイルスタンプ)に神経腫が形成されることが報告されています。断尾を施してから1~4年後の犬で見られる自傷行動は、神経腫による痛覚過敏と慢性痛によって引き引き起こされていると推測されています。なお「断尾神経腫」(Tail dock neuroma)と呼ばれるこの腫瘍は外科的に切除する必要がありますが、まず間違いなく生後14日齢を過ぎてから発生しますので手術に伴う痛みは免れません。 Mellor氏は「犬の年齢にかかわらず、医療的な目的を持たない断尾は禁止されるべきである」と主張しています。そして法律や規則などの文章に記載する際は最新の科学的知見に基づき、子犬の日齢(週齢)や痛みの有無に関する言及を割愛し、ただ単純に「医療的な目的を持たない断尾を禁ずる」とか「美容目的の断尾は犬にとって必要な器官を取り除く不要な施術である」というものにしたほうがよいとも。