詳細
調査を行ったのはイタリアにあるローマ・ラサピエンツァ大学のチーム。国内でアレルギー用の除去食として市販されているペットフード40商品(14メーカー)をランダムで選び出し、中に含まれている動物性タンパク質をマイクロアレイ(Microarray)という技術を用いて検出した上で、ラベルに記載されている内容と合致するかどうかを検証しました。
Ricci et al. BMC Veterinary Research (2018) 14:209, https://doi.org/10.1186/s12917-018-1528-7
- マイクロアレイ
- 多数の検査対象を一度に網羅的に一度に調べるときに用いられる技術。今回の調査では「動物性タンパク質」および「加水分解臓物」という漠然とした表示がされていた2商品を除いた38商品内に含まれる19種類の動物DNAが一斉に調査された。
調査対象となったペットフード
- ドライ15種+ウェット25種
- ドッグフード36種+キャットフード4種
- NPD31種(D9+W22)+HPD9種(D6+W3)
ラベルの信憑性
- まっとうな商品ラベルと実際の含有成分が完全に合致していたもの=10商品(ドライ1+ウェットフード9)
- 詐欺商品ラベルに記載されていた成分が検出されなかったもの=5商品
具体的なパターンはアヒルと記載されていたのにそれがまったく含まれていない、サーモンと記載されていたのに魚のDNAが検出されない、加水分解された家禽の肝臓と記載されていたのに鶏肉や七面鳥肉はおろか家禽のDNAすら検出されない - 誤表示(ミスラベル)商品ラベルに記載されているDNAは検出されたが、ラベルに記載されていないDNA1~7種類も合わせて検出された=23商品
ドライフードの中に余分に含まれていたものは、豚肉、鶏肉、家禽、七面鳥、牛肉、魚、羊肉、馬肉。逆に少なかったのはアヒルとヤギ肉。
ウェットフードの中に余分に含まれていたものは豚肉、鶏肉、家禽、七面鳥、牛肉、羊肉。逆に少なかったり検出されなかったのは馬肉、魚、アヒル、ヤギ肉。なおバッファロー、イヌ、ネコ、ロバ、ノウサギ、マウス、ラットの肉はどの商品からも検出されなかった。
Ricci et al. BMC Veterinary Research (2018) 14:209, https://doi.org/10.1186/s12917-018-1528-7
解説
除去食(elimination diet)とは、アレルギー症状を発症した犬や猫の原因が環境中にあるのか、それとも食事中にあるのかを大まかに見分ける時に用いるペットフードのこと。動物が今まで食べたことのないタンパク質(NPD or HPD)を2ヶ月ほど給餌し、症状が軽減すれば「アレルギーの原因は環境ではなく食事」、症状が変わらなければ「アレルギーの原因は食事ではなく環境」と判断されます。
しかし今回の調査では、信頼のおける真っ当な除去食は25%程度しかないという驚くべき結果となりました。この数字は深刻です。例えば、除去食のラベルに記載されていない「鶏肉」にアレルギー反応を示す犬が、2ヶ月の給餌試験後「症状の改善なし」と判断されたとしましょう。アレルギーの原因は食事ではなく環境にあるとみなした獣医師は、食事内容ではなく環境の改善を指示するかもしれません。しかし実際は、ラベルに記載されていなかった「鶏肉」が原因です。その結果、アレルギーの原因が永久に不明のままになり、患犬はいつまでたっても症状に苦しめられてしまうでしょう。
イギリス国内で市販されていたペットフード10商品を対象として行われた過去の調査では、17種類のウェットフード中15の商品でラベルに記載されていない牛肉、鶏肉、豚肉が検出されたといいます(Maine et al, 2015)。またアメリカ国内で52種類のペットフードを対象として行われた調査では、38.5%でラベルに記載されていないものが含まれていたり、逆にラベルに記載されているものが含まれていなかったとのこと(Okuma, 2015)。
今回イタリアでも同様の傾向が確認されたことから、ペットフードのミスラベルによる詐欺まがいの行為は世界規模のことなのではないかと危惧されています。ラベルに記載されていない混ぜ物として多かったのは豚肉、鶏肉、家禽、七面鳥肉など人間用食料の副産物として大量に出るものでした。こうした廃棄物を意図的に混入することにより、原価を抑えて販売価格を釣り上げたのではないかと考えられています。
日本国内でもアレルギー用の除去食は市販されていたり療法食として動物病院で処方されたりします。しかし中に含まれている成分がラベル通りなのかどうかはペットフードメーカーの良心に任せるしかありません。食べる物をアレンジしても環境を改善してもなかなか犬のアレルギー症状が軽減しないと場合、もう一度「本当に食事中にアレルゲンが含まれていないのか?」を検討してみる価値はあるでしょう。改めて除去食を用いる場合は、前回使ったのとは別のメーカーの商品を用いた方が無難です。ただし、そのメーカーが「まっとう」である保証はやはりありませんが…。