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犬の入手経路に関する意識調査・アメリカ編

 犬の入手経路やペットビジネスに関する意識調査がアメリカで行われ、属性ごとの特徴が明らかになりました(2017.9.7/アメリカ)。

調査概要

 調査を行ったのは、アメリカ・パデュー大学のチーム。2015年10月、オンライン調査ツールである「Qualtrics」を利用し、犬の入手先や福祉問題、ペットビジネス全般に関する意識調査を行いました。アメリカ国内に暮らしている1,523人から回答を得た後、国全体の縮図となるようランダムで507人を選び出し、以下に示すような設問に対して「強く同意する=1」から「まったく同意できない=7」までの7段階で評価してもらいました。判定区分は「1~3=そう思う」、「4=どちらともいえない」、「5~7=そう思わない」です。
設問
  • 責任ある唯一の入手方法は保護施設から引き取ること
  • 国内には犬の過剰問題がある
  • ペットショップで売られている犬は無責任なブリーダーの元から来ている
  • 犬の入手方法には選択肢があってもよい
  • 保護施設の犬はすべて譲渡可能である
  • 引取目的で犬を輸入することは無責任である
  • 純血種を買うチャンスがあるべき
  • 純血種への偏好をやめれば保護犬の数は減るだろう
  • 販売目的で犬を輸入することは無責任である
  • 犬を販売すること自体が社会的に無責任である
 その他、回答者の統計学的な特性(年齢・性別・世帯収入・学歴etc)や犬を入手する際に重要だと思う項目(犬種・見た目・生活スタイルとの合致・行動・遺伝的な健全さ・身体的な健康・費用・経験・入手先の評判・入手先)が調査されました。

調査結果

 回答者の統計学的な特性と回答との関連性を調べたところ、以下のような傾向が浮かび上がってきたといいます。

性別

 回答した割合に関し、男性よりも女性の方が統計的に多いと判断された項目は以下です。
女性>男性
  • 責任ある唯一の入手方法は保護施設から引き取ること
  • 国内には犬の過剰問題がある
  • ペットショップで売られている犬は無責任なブリーダーの元から来ている
  • 純血種への偏好をやめれば保護犬の数は減るだろう
  • 保護施設の犬はすべて譲渡可能である
  • 販売目的で犬を輸入することは無責任である
  • 引取目的で犬を輸入することは無責任である
  • 犬を販売すること自体が社会的に無責任である
 全体的に犬の譲渡に対する好意的なスタンスが確認されました。こうした傾向は過去に行われたいくつかの調査でも指摘されています。例えば、「男性よりも女性の方が動物福祉に関して強い懸念を持っている」(Verhue, 2003)、「保護施設では男性よりも女性職員の方が多い」(Markovits, 2009)、「保護施設から引き取る割合は女性の方が多い」(Reese, 2017)などです。

年齢

 55~88歳という年齢層は、18~34歳や35~54歳といった年齢層とは異なる傾向を見せました。この年齢層で回答割合が統計的に多いと判断された項目は以下です。
55~88歳>他の年齢層
  • 国内には犬の過剰問題がある
  • 純血種を買ってもよいと思う
  • 犬の入手方法には選択肢があってもよい
  • 販売目的で犬を輸入することは無責任である
  • 引取目的で犬を輸入することは無責任である
 犬の過剰問題に関する意識がある一方、「入手方法は自由で純血種も悪くない」と回答していることから、55~88歳という年齢層は頭数過剰の背景にある問題までは掘り下げて考えていないと考えられます。この年齢層の人たちが生まれ育ってきた1930~80年代は、犬のしつけに際して殴る蹴るといった暴力が平気で用いられていました。こうした時代背景を通じて刷り込まれた「たかがワン公」という潜在意識が、犬の福祉問題に関する軽視につながっているのかもしれません。「ペットショップで売られている犬たちは無責任なブリーダーのところから来ている」という質問に対し「そうは思わない」と回答する割合が高かったのはその一例でしょう。
 一方、過去に動物福祉に関して行われた意識調査では、若い世代の方が強い懸念を抱いていることが指摘されています。今回の調査でも「純血種を買ってもよいと思う」という設問に対して同意した割合は若い世代(18~34歳)が最も低く42.3%でした。

学歴

 大卒以上の層は、犬を保護施設から引き取る割合が高く、犬を入手するときに重要な要素として「経験、入手先の評判、犬の入手先」を選ぶ傾向が見られました。過去に行われた調査(Reese, 2017)では、大卒以上の人は保護施設から犬を引き取る割合が高かったと報告されています。この学歴層は、動物愛護団体を支援することが重要と考えているのかもしれません。

居住地域

 今回の調査では、回答者の居住地域が国勢調査の区分に合わせる形で分類されました。具体的には北東部、中西部、南部、西部の4地域です。地域ごとの特徴としては、西部地域において「純血種を買ってもよいと思う」という質問に対し「そう思わない」と回答する割合が高く見られました。また南部地域においては「犬を販売すること自体が社会的に無責任である」と「純血種を買うことをやめれば保護犬の数は減るだろう」という質問に対し「そう思う」と回答する割合が高く見られました。要するに中西部に比べ、西部や南部では犬の繁殖業をあまり快く思っていない人が多いということです。
 こうした地域差の背景にあるのは、中西部において商業目的での犬の繁殖が比較的盛んであるという事実だと推測されます。この地域に暮らしている人の中には、知人や親類が犬の繁殖業に携わっているという人もいるでしょう。その場合、純血種を買うことに反対したり、犬の販売を「無責任だ!」と悪しざまに言うことには心理的な抵抗が生じます。

収入

 $76,000~$100,000という高所得層では、「どこで犬を入手するかは自由である」という質問に対し「そう思わない」と回答する割合が高く見られ、また犬を入手する際に最も重要なのは「犬種」と回答する割合が高く見られました。過去の調査によると、高収入グループはブリーダーから入手する割合が高かったと報告されていますので、この所得層では純血種に対するこだわりが強いのかもしれません。
 その一方、$0~$25,000の低所得層では、身体的な健康や経験を入手する際の重要な要素とみなす割合は低い値を示しました。また、野良犬を引き取ったり保護施設から犬を引き取る傾向が強く見られました。この所得層では、倫理的な要請から保護犬を引き取るというより、入手費用や飼育費用への懸念から保護施設を利用するといった傾向が見て取れます。
Stated Preferences for Dog Characteristics and Sources of Acquisition
Courtney Bir et al., Animals 2017, 7(8), 59; doi:10.3390/ani7080059