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犬の目の中を泳ぐ「東洋眼虫」がイギリス国内で増えつつある

 犬の眼球の中を住処とする線虫の一種「東洋眼虫」が、国外からイギリス国内に人知れず持ち込まれているようです(2017.9.14/イギリス)。

詳細

 報告を行ったのは、イギリス・リバプール大学を中心としたチーム。哺乳動物の目の中に住み着いて繁殖を繰り返す「東洋眼虫」に感染した犬3頭の症例報告を行いました。以下は概要です。
犬の東洋眼虫症例
  • 症例1●コリーミックス(1歳 | オス | 17kg)
    2016年3月24日、去勢手術のため来院。症状は無し。全身麻酔下で両結膜から線虫10匹を除去。市販の駆虫薬を処方。病院を受診する6週間前、ルーマニア西部にあるフネドアラから英国内に輸入された。
  • 症例2●ワイアーヘアードフォックステリア(12歳 | メス | 9.5kg)
    2016年9月21日、左目の結膜炎を主訴として来院。第三眼瞼の下および結膜嚢から10匹を除去。市販の駆虫薬と目薬を処方。来院の20日ほど前、イタリア北部ロンバルディア州に旅行をした。この地域は23.1%という高い感染率が報告されているピエモンテ州に近い。
  • 症例3●ウエストハイランドホワイトテリア(8歳 | メス | 8kg)
    2016年10月31日、右目の角膜潰瘍を主訴として来院。目薬を処方したものの改善せず11月9日になって眼科専門医に紹介した。結膜円蓋を洗浄したところ線虫が角膜表面に浮上。目薬と経口駆虫薬が処方された。2016年8月から9月のおよそ1ヶ月間、フランスのドルドーニュ県に滞在していた。
犬の眼球内に認められる東洋眼虫の成虫  調査チームによると、犬たちはすべてイギリス国内に入国する24~120時間前のタイミングで駆虫薬(成分プラジカンテル・フェバンテル・ピランテル)を投与されていたと言います。しかし薬の中には東洋眼虫に対して有効とされる「ミルベマイシン」や「モキシデクチン」といった成分が含まれていなかったため、駆除されないまま国内に持ち込まれたのではないかとのこと。症例1では明確な症状を示していなかったことから、知らないうちに他の犬や人間に感染を広げ、最悪のケースでは局地的な流行に発展してしまう危険性があると指摘しています。
Three cases of imported eyeworm infection in dogs: a new threat for the United Kingdom
John Graham-Brown, Paul Gilmore et al., Veterinary Record (2017), doi: 10.1136/vr.104378

解説

 人間や動物における東洋眼虫の感染例は中国、韓国、台湾、そして日本などで確認されています。また名前に「東洋」と入っているものの東洋限定というわけではなく、ヨーロッパではイタリア、フランス、スイス、ドイツ、スペイン、ポルトガル、ボスニア・ヘルツェゴビナ、クロアチア、ルーマニア、ブルガリア、ハンガリー、ギリシア、ベルギー、セルビアといった国において感染が確認されており、中にはイタリア・バジリカータ州のように犬における感染率が40%というとんでもない地域まで存在しています。 東洋眼虫は東洋に限らず西洋でも見られる  日本人および日本国内に暮らしている犬や猫にとっても決して無関係とは言えない東洋眼虫に関する基本情報は以下です。
東洋眼虫・基本情報
  • 寄生虫旋尾虫類に属する体長11~15mmの白色線虫「東洋眼虫」(Thelazia callipaeda)。
  • 感染経路寄生虫を保有した終宿主の涙液をハエが吸い取る→涙液に含まれていた1齢幼虫を同時に摂取→1齢幼虫がハエの体内で3齢幼虫まで成長→ハエが別の動物の涙液を吸い取る→吸い取るときに保有していた3齢幼虫が移行→動物の結膜嚢の中で4~5週かけて成虫になる→成虫の体内で卵から1齢幼虫まで発育→1齢幼虫が涙液中に放出される→最初に戻る
  • 媒介動物ヨーロッパではショウジョウバエ科の一種「Phortica variegata」。日本ではオオマダラメマトイ、マダラメマトイ、カッパメマトイ。
  • 終宿主イヌ、タヌキ、キツネ、ネコ、ウサギ、サル、ヒトなど。
  • 流行地域日本では九州、特に大分、宮崎、熊本県。その他症例報告がある地域は香川、愛媛、岡山、山口、大阪、京都、兵庫、愛知、東京、茨城、神奈川。
  • 症状無症状のものが少なくない。軽症では流涙症、結膜浮腫、結膜炎。重症では角膜潰瘍と二次感染からの失明。
  • 治療法基本は成虫の物理的な除去。犬ではミルベマイシンやモキシデクチンなどの駆虫薬。
 人間や動物への感染はメマトイと呼ばれるハエの一種によって成立するようです。目の周辺にまといついて涙を餌にすることから「メマトイ」と命名されたこれらのハエは、広葉樹林で発生し、3月から12月(最盛期は7~9月)にかけて活動するとされています。感染例が関東より西側に集中している理由は、おそらくハエの生息域が西日本に集中しているからなのでしょう。
 1987年に発表された「大分県における東洋眼虫の人体寄生症例発生状況」(→出典)によると、人間における感染例は10歳以下と60歳以上に極端に偏っていたとのこと。目の周辺にハエがたかってもうまく払いのけることができないことが感染率を高めているものと推測されています。 犬の東洋眼虫は軽症例が多いものの、見た目が気持ち悪い  東洋眼虫は、仮に感染したとしても命を脅かすような重症に発展することはないと考えられます。しかし、ただただ気味が悪いので犬とは日常的にアイコンタクトするようにしましょう。特に西日本在住、老犬、涙やけを起こしやすい短頭種の飼い主は要注意です。 犬のアイコンタクトのしつけ