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犬の熱中症関連死を血液から予見するバイオマーカー候補が明らかに

 熱中症にかかった犬を対象とした血液検査により、死亡症例の予見因子になりそうなバイオマーカー候補が明らかになりました(2017.5.18/イスラエル)。

詳細

 熱中症とは体内にたまった熱をうまく外に逃がすことができず、体温が異常に高くなってしまった状態のこと。犬においては深部体温で41℃超が1つの目安とされています。熱中症は体温の上昇に伴う細胞の直接的なダメージのみならず、炎症反応の活性化に伴う凝血機能不全(DIC)を全身に引き起こし、人においても犬においても死亡率を50%近くにまで高めることがあります。
DIC
 DIC(播種性血管内凝固症候群)とは、血液の凝固能力が抗凝固能力を上回り、微小血管内で数多くの目詰まりを起こして臓器不全や出血傾向を引き起こした状態のこと。熱中症にかかった54頭の犬を対象とした調査では、50%でDICの疑いありと診断されている。
 今回の調査を行ったのは、イスラエル・ヘブライ大学獣医学校のチーム。熱中症を自然発症した犬30頭(オス犬27頭 | 年齢中央値4歳 | 体重中央値32kg)を対象とし、受診時、4、12、24、36、48時間後のタイミングで血液検査を行いました。具体的な検査項目は以下です。
血液凝固能の検査項目
  • PT血液を凝固させる血小板の数。
    ✓参照値=150~500×10000/μL
  • aPTT活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)は血液凝固能検査のひとつで、被検者の静脈血から血漿成分を取り出し、接触因子活性化物質を添加することで凝固時間を測定するというもの。
    ✓参照値=11~17秒
  • ATAアンチトロンビン活性(ATA)は血液凝固・線溶検査の一つ。
    ✓参照値=87~140%
  • tPCAプロテインC活性(tPCA)は凝固調節因子であるプロテインCがどの程度機能しているかを示す指標。
    ✓参照値=12.6~31.3%
  • フィブリノーゲンフィブリノーゲンは肝臓で産生される糖タンパクの一種で、重要な止血成分。
    ✓参照値=150~300mg/dL
  • D-ダイマーD-ダイマーはフィブリンがプラスミンによって分解される際の生成物で、血栓症の判定に用いられる。
    ✓参照値=250μg/mL未満
 生存例18頭と死亡例12頭の血液中に含まれる成分のうち、「播種性血管内凝固症候群」(DIC)との関わりが深いとされる成分の推移を調べたところ、死亡率に関連している因子として以下のような項目が浮かび上がってきたといいます。
熱中症による死亡率関連因子
  • 受診直後の分析値とは関連していない
  • 受診から12時間後におけるPTの延長
  • 受診から24時間におけるPTの平均時間延長
  • 受診から12、24時間後におけるaPTTの延長
  • 受診から24時間におけるaPTTの平均時間延長
  • 受診から12時間後におけるtPCAの低下
  • 受診から24時間後におけるフィブリノーゲンの低下
  • 受診から24時間以内に見られる凝固不全の項目数増
 死亡症例になるかどうかを予見するときのバイオマーカーとしては以下のような値が提唱されています。なお「特異度」とは陰性のものを正しく陰性と判定する確率、「感度」とは陽性のものを正しく陽性と判定する確率のことです。
熱中症患犬の予見因子
  • フィブリノーゲン濃度24時間時点における値が172mg/dL未満のとき…
    ✓特異度=80%
    ✓感度=75%
  • aPTT24時間時点における時間が37.5秒超のとき…
    ✓特異度=76%
    ✓感度=70%
 受診直後における血液分析値では患犬の予後を十分に予測することができないため、24時間は定期的に血液を採取してモニタリングする必要があるとしています。費用面から頻繁な血液検査ができないような場合は、少なくとも受診時と4時間後のタイミングで行い、急性DICへの対応が遅れてしまわないよう気をつける必要があるとも。
Hemostatic abnormalities in dogs with naturally occurring heatstroke
Yaron Bruchim et al., Journal of Veterinary Emergency and Critical Care 00(0) 2017, pp1-10, doi: 10.1111/vec.12590

解説

 今回の調査では運動性の熱中症が73%(22頭)、環境性の熱中症が27%(8頭)という内訳でした。「運動性の熱中症」の方は、犬が運動に夢中になってオーバーヒートしないよう、飼い主が注意深く監視することで十分に予防が可能だと思われます。また「環境性の熱中症」の方も、「日中の散歩を避ける」とか「炎天下での屋外放置を避ける」といった配慮によって予防できそうです。
 その他「オス犬」(27/30頭)、「短頭種」(11/30頭)、「レトリバー」(6/30頭)の占める割合がやや高かったことから、こうした要素は「運動量が多すぎる」もしくは「体温調節が苦手」のどちらかの危険因子を含んでいるものと推測されます。飼い主は少し注意したほうが良いかもしれません。鼻腔が狭窄している短頭種や運動量が多い大型犬は熱中症に注意が必要  病院を受診した直後における血液分析値は、その犬がどのような経過をたどるかを忠実に反映してくれないことが明らかになりました。犬が熱中症にかかってしまった場合、できれば24時間は血液の状態をモニタリングしておくことが望まれます。特に急性のDICによる突然死には注意が必要です。 犬が熱中症にかかった