詳細
調査を行ったのは、アイオワ州立大学とテキサスA&M大学の共同研究チーム。大学の動物病院を受診した犬の中から、原因不明の髄膜脳脊髄炎を発症した犬と、品種や年齢層は同じだけれども発症していない犬をリクルートし、発症要因に関する比較調査を行いました。
発症グループ20頭と対照グループ20頭から糞便サンプルを採取し、かねてから当症との関連性が指摘されていた「Faecalibacterium prausnitzii」と「Prevotellaceae」という腸内細菌の量を調べた所、「Prevotellaceae」が豊富な犬において発症リスクが低下することが明らかになったといいます。以下に示すのは「Prevotellaceae」の量と発症リスクの関係です。数値は「オッズ比」(OR)で、標準の「1」よりも数字が大きいほど発症リスクが高いことを意味しています。
Jeffery ND, Barker AK, Alcott CJ, Levine JM, Meren I, Wengert J, et al. (2017) PLoS ONE 12(1): e0170589. doi:10.1371/journal.pone.0170589
Prevotellaceaeと発症リスク(OR)
- 少ない→7.0
- 中間→1.0
- 多い→0.4
Jeffery ND, Barker AK, Alcott CJ, Levine JM, Meren I, Wengert J, et al. (2017) PLoS ONE 12(1): e0170589. doi:10.1371/journal.pone.0170589
解説
自分の体に対する免疫反応が、ある種の腸内細菌叢によって調整されているのではないかという仮説はかねてからありました。例えばワイルドタイプ(人間が調整していないタイプ)のマウスは自己免疫性脳炎を発症するのに対し、無菌状態のマウスは発症しないとか、抗生物質を投与して腸内細菌叢を変化させることによって自己免疫性脳炎を発症するなどです。また人医学の分野では「F. Prausnitzii」と「Prevotella」のどちらか一方、もしくは両方が減少すると、自己免疫反応を抑制することによって多発性硬化症の発症リスクが下がるという可能性が示されています。
人間における多発性硬化症と犬の特発性髄膜脳脊髄炎は病理学的に共通する部分が多いと言います。「Prevotellacea」が発症に直接関わっているのか、それとも単なる副産物なのかを解明できれば、両疾患に対して「腸内におけるPrevotellaceaの相対量を増やす」といった斬新なアプローチ法が実現するかもしれません。
- 多発性硬化症
- 多発性硬化症とは、脳や脊髄に含まれる神経細胞の髄鞘が消失していく難病の一つ。神経細胞同士をつなぎ合わせている電気ケーブル(軸索突起)から髄鞘が失われると、信号の伝達が滞り、様々な障害が引き起こされる(→出典)。
人間における多発性硬化症と犬の特発性髄膜脳脊髄炎は病理学的に共通する部分が多いと言います。「Prevotellacea」が発症に直接関わっているのか、それとも単なる副産物なのかを解明できれば、両疾患に対して「腸内におけるPrevotellaceaの相対量を増やす」といった斬新なアプローチ法が実現するかもしれません。