詳細
調査を行ったのは、アメリカ・フロリダ大学小動物科学部。2010年1月1日から2016年9月9日の期間、フロリダ州にある非営利団体「タンパベイ動物愛護協会」で不妊手術(オス犬の去勢+メス犬の避妊)を受けた犬を対象とし、周術期(術前 | 術中 | 術後 | 退院後)における死亡率を電子医療記録から後ろ向きに調査しました。その結果、オス犬20,800頭、メス犬21,549頭からなる合計42,349頭分のデータが集まり、以下のような結果になったといいます。
J.K.Levy, K.M.Bard, S.J.Tucker, P.D.Diskant, P.A.Dingman, dx.doi.org/10.1016/j.tvjl.2017.05.013
犬の不妊周術期死亡率
- オス犬(0頭)=0%
- メス犬(4頭)=0.019%
- 全体(4頭)=0.009%
J.K.Levy, K.M.Bard, S.J.Tucker, P.D.Diskant, P.A.Dingman, dx.doi.org/10.1016/j.tvjl.2017.05.013
解説
死亡率に影響を及ぼす因子としては以下のような項目が浮かび上がってきました。
専門病院の死亡率が低い
1日に多数の手術を行う不妊手術専門病院では、一般的な動物病院に比べて不妊周術期における死亡率が低くなるという可能性が示されました。この理由としては、同じ手技を繰り返してるため施術者が習熟している、スタッフが作業手順を熟知しておりミスが少ない、他の患者や業務に気を取られることがなく施術に集中できる、などが考えられています。また一般の動物病院では「実地トレーニング」という名目のもと、不慣れな獣医師が施術を担当することもありますので、こうしたケースが成功率を低下させているのかもしれません。
メス犬の死亡リスクが高い
今回の調査では、猫の周術期死亡率も同時に調べられました。その結果、犬(0.009%)よりも猫(0.048%)のほうが5倍近くリスクが高いことが明らかになったといいます。またオス犬(0%)よりもメス犬(0.019%)のほうがややハイリスクであることが明らかになりました。この性差は統計的に有意と判断されませんでしたが、小さな体に対してオスよりも侵襲性の高い開腹手術を行うことが、メス(犬でも猫でも)の死亡率を高めているのかもしれません。
早期手術のリスクはない
年齢が判明している4,934頭の犬を年齢層で区分したところ、生後6ヶ月未満の死亡率が0%だったのに対し、6ヶ月以上の死亡率は0.03%(1/3,288)という値でした。数値的には格差が見られたものの統計的に有意とは判断されず、6ヶ月齢未満の若齢犬の不妊周術期死亡率が高まるという根拠は見つかりませんでした。この事実は近年浮上している犬の早期不妊手術論を支持するものです。
日本の不妊手術専門病院
2017年8月現在、日本国内に猫の不妊手術専門病院はいくつかありますが、犬の不妊手術を専門にしている動物病院はないようです。もし専門病院をビジネスとして成立させようとすれば、野良犬が少ない日本においてはペット犬も手術対象とする必要があるでしょう。おそらく料金は安く設定されると思いますので、近隣の動物病院にとっては脅威となり、快く思わない人が出てくるかもしれません。一方、ふるさと納税などで数億円の寄付金が集まったNPOはビジネスのことを考える必要はありませんので、設立しようと思えばいつでもできるはずです。
「1日に多数の手術を行う」と聞くと、1件1件の施術がおざなりになるのではないかという懸念を抱いてしまいますが、今回の調査結果を見る限り、そうした「早かろう安かろう悪かろう」というイメージは根拠のない単なる思い込みで、むしろ質の高い施術を受けられる可能性の方が高いようです。ただし当調査はフロリダ州にあるたった1つの施設で行われたものですので、あまりにも早急な一般化は危険でしょう。また調査対象となった病院は「シェルター獣医師協会」(ASV)が定めた不妊手術ガイダンス(→出典)に則って施術を行っていますので、日本の獣医師も全く同じであると想定するのは早計です。