詳細
調査を行ったのはオーストリア・ウィーン大学と「ウルフ・サイエンス・センター」の共同チーム。まったく同じ環境で育てられた7頭の狼(メス3頭+オス4頭/平均年齢4.7歳)と7頭の犬(メス5頭+オス2頭/平均年齢3.2歳)を訓練し、提示された2つのお皿のうち、左側は「確実に手に入るけれども、それほど美味しくない餌」、右側は「50%の確率で手に入る非常に美味しい餌」という関連性を記憶させました。
その後、合計80回の二者択一テストを4セッションに分けて行ったところ、犬が右側のリスキーなお皿を選択する確率が平均58%だったのに対し、狼のそれは84%にも達したといいます。また「狼の方が餌に対する執着が強い」とか、「狼の方が衝動的な行動に対する抑制力が弱い」といった可能性は低いとも。
こうした結果から調査チームは、「一か八かに賭ける狼のギャンブラー的な傾向は、不確実な獲物に頼って生きてきた種としての記憶である」という結論に至りました。それに対し犬は、狼と枝分かれしてから人間の残飯に頼って生きてきたため、でかい獲物をゲットしようとする山師的な側面が徐々に薄れ、代わりに「最高の食事ではないけれども、確実に手に入るならそれでいいや」という事なかれ主義に傾いてきたものと推測されています。 Exploring Differences in Dogs’ and Wolves’ Preference for Risk in a Foraging Task
Sarah Marshall-Pescini, Ingo Besserdich, et al. 2016
こうした結果から調査チームは、「一か八かに賭ける狼のギャンブラー的な傾向は、不確実な獲物に頼って生きてきた種としての記憶である」という結論に至りました。それに対し犬は、狼と枝分かれしてから人間の残飯に頼って生きてきたため、でかい獲物をゲットしようとする山師的な側面が徐々に薄れ、代わりに「最高の食事ではないけれども、確実に手に入るならそれでいいや」という事なかれ主義に傾いてきたものと推測されています。 Exploring Differences in Dogs’ and Wolves’ Preference for Risk in a Foraging Task
Sarah Marshall-Pescini, Ingo Besserdich, et al. 2016
解説
狼で見出されたリスクテイクの傾向は、チンパンジーでも確認されています。木の実がそれほど豊富でなく、確実に餌にありつけるとは限らない環境に暮らしているチンパンジーは、リスクテイクの傾向が強く、また遅延報酬(ご褒美の先延ばし)に対する忍耐力も強いと言います。一方、地上の植物を主食とし、時間的にも空間的にも食事に困ることが少ないボノボでは、上記したような傾向が見られないとも。こうした事実から考えると、結果が不確実なものに時間と労力を投資するリスクテイクは、その動物種がどのような食料獲得戦略をとっているかによって大きく左右されるようです。
食料の確実性とリスクテイクの関連性は人間でも顕著に見られます。例えば過去に行われた実験では、確実に手に入る10ユーロと50%の確率でしか手に入らない20ユーロのどちらか一方を選ばせた時、過半数は10ユーロを選択するという結果になっています(→出典)。農耕や牧畜によって食料の確実性が格段に高まったため、人間はいつの間にかリスクを取らない事なかれ主義になったのかもしれません。
人間の事なかれ主義が犬でも見出されたというのは興味深いところです。過去の調査では、人間の残飯に頼りながら生きてきた犬たちは、デンプンを消化するために狼には無い特殊な遺伝子を発達させたと報告されています(→詳細)。これと同じように、犬が人間のライフスタイルに合わせ、遺伝子レベルでリスクを回避する事なかれ主義に変身したという可能性は大いにあるでしょう。
人間の事なかれ主義が犬でも見出されたというのは興味深いところです。過去の調査では、人間の残飯に頼りながら生きてきた犬たちは、デンプンを消化するために狼には無い特殊な遺伝子を発達させたと報告されています(→詳細)。これと同じように、犬が人間のライフスタイルに合わせ、遺伝子レベルでリスクを回避する事なかれ主義に変身したという可能性は大いにあるでしょう。