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イヌコブウイルスの国内感染率が明らかになる

 2011年に初めて存在が確認された「イヌコブウイルス」が、日本国内に暮らしている犬の間ですでに蔓延していることが明らかになりました(2016.9.12/日本)。

詳細

 「イヌコブウイルス」(canine kobuvirus)は2011年、北アメリカに暮らす犬の糞便から初めて分離されたウイルス。遺伝的には、3種類ある亜系(アイチウイルスA/B/C)のうち「アイチウイルスA」に属しています。その後、イタリア、イギリス、韓国、中国、タンザニアなどにおいても存在が確認され、またジャッカルやキツネ、ハイエナといった他のイヌ科動物の体内からも、イヌコブウイルスに極めて近似したウイルスが分離されています。 アイチウイルスの電子顕微鏡写真  大阪府立大学・生命環境科学域獣医学類の調査チームは、2012年から2015年の期間、下痢を症状として日本各地の動物病院を訪れたペット犬94頭と、4つのペットショップに入荷した生後1~3ヶ月齢の臨床上健康な子犬50頭を対象とし、イヌコブウイルスの陽性率を検査しました。その結果、下痢の犬からは37.2%(35頭)、ショップの犬からは48.0%(24頭)という高い割合でウイルスが検出されたと言います。また生後2ヶ月齢の陽性率が63.9%と極めて高かったのに対し、生後5ヶ月を過ぎた犬24頭の陽性率は0%と、極端な開があったとも。さらにペットショップの犬たちで高い陽性率を示したことから、密飼いが感染を拡大させていると推測されました。
 こうしたデータから調査チームは、「イヌコブウイルス」は日本国内の犬の間ですでに高い確率で蔓延しているという事実を明らかにしました。また生後5ヶ月を超えると陽性率が0%になるという特徴から、犬は数ヶ月の間に年齢依存性の免疫力を獲得し、再感染に対する強い抵抗性を示すようになると推測されています。 Detection of kobuvirus RNA in Japanese domestic dogs

解説

 コブウイルスはピコルナウイルス科に属するウイルスの一種で、有名なものとしては1989年に愛知県で初めて分離されたアイチウイルス(Aichi virus)があります。遺伝的にA、B、Cという3つの亜型があり、今回話題になった「イヌコブウイルス」を正確に表現すると、「ピコルナウイルス科コブウイルス属アイチウイルスA」となります。アイチウイルスの主な情報は以下です。 食品安全確保総合調査(H22)
アイチウイルスについて
  • アイチウイルスの基本特性  ピコルナウイルス科コブウイルス属に属するウイルスの一種。1989年に愛知県で初めて分離されたことからこの名がついた。その後、南アジア、パキスタン、ドイツ、ブラジルといった海外からも報告が集まってきており、遺伝子型に関しては日本やドイツで分離された株のほとんどがA型、アジアやブラジルで分離された株はB型だと考えられている。
  • アイチウイルスの保有率  愛知県におけるヒトの中和抗体保有状況調査では、4歳以下で7%、5~9歳が18%、10~14歳が32%、15~19歳が50%と加齢とともに増加し、30歳以上の人では80%前後の人が抗体を保有していると推計されている。
  • アイチウイルスの感染経路  汚染されたカキ(日本)や水(海外)を経口摂取することが原因と考えられる。1987年から1998年の12年間に、愛知県内で発生した食中毒37事例中12事例(32.4%)からアイチウイルスが検出され、そのうち11事例(91.6%)はカキに関連していた。小児の抗体保有率の低さから、ヒトからヒトへの感染はまれと思われる。
  • アイチウイルスの潜伏期間  明らかにされていない。また体内でのウイルス増殖部位なども不明。
  • アイチウイルスの症状  食中毒患者では、吐き気が91.7%、腹痛が83.3%、嘔吐が70.8%、下痢・発熱が58.8%の確率で見られた。高い確率でノロウイルスとの混合感染が認められたり、他の胃腸炎ウイルスと比較して検出頻度が非常に低いことから、病原性を疑問視する声もある。
  • アイチウイルスの治療  ウイルスは60℃30分の加熱で不活化するが、ウイルスを特異的に死滅させる薬剤は存在しない。下痢による脱水に対しては電解質補充療法が取られ、重症度に応じて経口補液や経静脈補液を行う。
 ウイルスが持つ病原性に関しては、今回大阪府立大学が行った調査でも曖昧な結果が出ました。下痢症状を示した35頭におけるコブウイルス以外の病原体を調べたところ、イヌコロナウイルスI型が21頭、II型が15頭、イヌジステンパーウイルスが5頭の糞便から検出されたと言います(複合感染あり)。その一方、7頭(20%)ではイヌコブウイルス以外の病原性ウイルスが検出されませんでした。こうした事実から、イヌコブウイルスは、少なくとも症状の主犯格ではなく、他のウイルスと複合感染したときや、宿主の免疫力が低下した時にだけ症状を悪化させる程度ではないかと推測されています。
 それほど質の悪いウイルスではないようですが、ペットショップ経由の子犬が生後5ヶ月を過ぎるまでは、頭の片隅に置いておいた方がよいと思われます。