詳細
「メルケル細胞」は1875年、ドイツの解剖学者フリードリヒ・ジークムント・メルケルが発見した細胞の一種。鳥類、魚類、爬虫類、両生類、哺乳類など様々な動物の皮膚内に存在し、物体表面の質感や皮膚の歪みを感受する際に機能していると考えられています。また2014年に行われた調査では、メルケル細胞が弱く持続的な機械刺激に深く関与していることが明らかになっています(→出典)。
過去に行われた調査により、メルケル細胞が犬の皮膚内にも存在していることはすでに確認されています。しかし、どの部位にどのような密度で分布しているのかに関してはよくわかっていませんでした。そこでスペインのラス・パルマス・デ・グラン・カナリア大学の調査チームは、オス11頭とメス10頭からなる21頭を対象とし、犬の体におけるメルケル細胞の分布図を作成しました。調査対象となった犬は、偏りが出ないよう年齢(4歳未満11:4歳以上10)、体重(20キロ以上7:20キロ未満14)、犬種(純血種12:ミックス9)、毛の長さ(短毛13:長毛8)、毛の色(ライトカラー10:ダークカラー11)、皮膚の色(肉球有色8:無色13)、粘膜の色(口内粘膜有色9:無色12)が全てばらばらに振り分けられています。犬たちの全身から合計1,187の皮膚サンプルを採取してメルケル細胞の密度を調査したところ、以下のような結果になったといいます(※数字は皮膚基底部1平方cm当たりの平均細胞数)。
人間の口腔内におけるメルケル細胞は、硬口蓋や上下の歯茎に限定されますが、犬では頬の内側や軟口蓋など、それ以外の場所でも豊富に散見されました。こうした分布の理由は、口腔内における舌の位置を感知するために重要だからではないかと考えられています。
人間の指先と同様、犬の肉球真皮辺縁部にメルケル細胞が分布していることが確認されました。しかし数に関しては人間よりも遥かに少ないようです。これは、拇指対向性(親指と人差指を向かい合わせることができる)で「物を掴む」という動作ができる人間の方が、指先の感覚を鋭敏に保つ必要があるからだと推測されます。
Anatomical Mapping and Density of Merkel Cells in Skin and Mucosae of the Dog
解説
犬の皮膚の有毛部や無毛部で発見されたメルケル細胞のうち、神経接続があったのは41~65%でした。この値は、げっ歯類、猫、人間などで確認されている50~70%とほぼ一致します。一方、犬の口腔粘膜で発見されたメルケル細胞のうち、神経接続があったのはわずか8~18%に過ぎなかったといいます。メルケル細胞内で神経伝達物質が発見されているという事実を考え合わせると、この細胞が機械的刺激の受容のほか、傍分泌~内分泌機能によって上皮細胞の分裂増殖に関わっているという可能性が浮上してきます。
頬から口元にかけての犬の顔面部には非常に多くのメルケル細胞が分布していますので、触るときは少しデリケートになった方がよいでしょう。信頼関係が出来上がっている人間にマッサージされる場合は、 「敏感だから気持ちが良い」というように、プラスに働くものと考えられます。一方、信頼関係が出来上がっていない人間に触られる場合は、「敏感だから不愉快」という具合に、マイナスに働く危険性があります。結果として、馴れ馴れしく触ってくる手に噛み付いてしまうかもしれません。犬の顔の近くに手をもって行くときは従来のセオリー通り、手をグーにして犬の鼻先にゆっくりと近付け、犬がクンクンして「触ってもいいですよ」という雰囲気になってから、ゆっくりと顔面部を撫でることをお勧めします。