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犬のストレス軽減につながる収容施設デザイン

 設定の異なる2つの施設に収容された犬を対象とした観察により、犬のストレス軽減につながるデザインが明らかになりました(2016.10.20/イギリス)。

詳細

 研究機関で飼育されている動物の福祉を向上させるためには、「置き換え」(Replacement)、「減少」(Reduction)、「洗練」(Refinement)からなる「3つのR」が重要だとされています。具体的には、研究における実験動物の使用を他の方法に置き換えたり減らしたり、動物の経験する苦痛や不快感が最小になるよう実験方法を洗練するといった内容を指します。
 3つ目の「洗練」に関しては、EU法や各種のガイドライン内で様々な推奨項目が設けられています。しかし、それらが本当に犬の福祉向上につながっているのかどうかという検証は、あまり本格的に行われていませんでした。そこでイギリスのスターリング大学を中心とした調査チームは、設定の異なる2つの施設内に飼育条件を微妙に変えたグループを3つずつを収容し、生活環境が犬の福祉にどのような影響を及ぼすかを比較検討しました。具体的な内容は以下です。
特設型の施設
広い居住区画と豊富なエンリッチメントを含んだ特設型の施設
  • 居住グループ=1~3(合計22頭)
  • 1頭あたりの居住区画=4.84平方m
  • 室内の遊び場あり
  • 屋外の遊び場あり
  • 2つの居住区画内の張り出し棚6個
  • 基本エンリッチメントあり
  • 拡張エンリッチメントあり
  • 週に1回のトレーニングセッション
エンリッチメント
基本エンリッチメントは噛めるおもちゃと上から吊るされたコングのことで、共用。拡張エンリッチメントは様々な種類の噛めるおもちゃのことで、各犬専用。
従来型の施設
狭い居住区画と限られたエンリッチメントしか無い従来型の施設
  • 居住グループ=4~6(合計24頭)
  • 1頭あたりの居住区画=2.5平方m
  • 室内の遊び場はグループ6だけ
  • 屋外の遊びはなし
  • 2つの居住区画内の張り出し棚1~2個
  • 基本エンリッチメントあり
  • トレーニングセッションなし
 犬の福祉を評価するための特殊な指標を用い、各グループが有する特性を考慮しながら比較した所、ポジティブを示す指標に関し以下のような傾向が浮かび上がってきたといいます。なお「ポジティブの指標」とは、休息姿勢の増加など、犬がリラックスしているときに見られる典型的な変化のことです。
ポジティブ指標への影響因子
  • 居住区画の広さ特設型>従来型
    1頭に対して割り当てられた居住区画の広さに関し、従来型が2.5平方mだったのに対し、特設型は4.84平方mと倍近くありました。隣に暮らしている犬との距離感を自分の裁量で決められるという状況が、犬のストレス軽減につながったものと考えられます。
  • 遊び場遊び場あり>遊び場なし
    従来型の施設に収容されたグループ4~6のうち、グループ6にだけ室内の遊び場が与えられました。その結果、グループ6のポジティブな指標が増えると同時に、鳴き声などによる騒音レベルが最低値を記録したといいます(グループ4は99.7dB、5は105.7db、6は77.6dB)。適度な運動がストレスの度合いを軽減し、適度な疲労が無駄吠えを減らしたものと推測されます。
  • 人間との接触接触多い>接触少ない
    特設型の施設に収容されたグループ1~3では、人間との接触の度合いが調整されました。グループ1は1人の人間による最小限の接触、グループ2は少人数によるコンスタントな接触、グループ3は多人数による不定期的な接触です。その結果、グループ2では常同行動の増加が認められたものの、休息時間の増加と立位の減少が顕著に見られたと言います。
  • エンリッチメント拡張>基本
    基本エンリッチメントしかない従来型施設よりも、拡張エンリッチメントまで含む特設型施設の方が、全体的に多くのポジティブ指標が観察されました。
 こうした結果から調査チームは、研究施設という限られた空間内で飼育されている犬たちの福祉を向上させるためには、理想的な環境を整備するのみならず、人間が時間と労力をかけて犬と接する時間を増やすことも重要であると推奨しています。 The influence of facility and home pen design on the welfare of the laboratory-housed dog
Laura E.M. Scullion Hall, Sally Robinson, et al. 2016
犬の福祉を向上させるためには環境だけでなく関わる人間の努力も必要

解説

 全体的に見たとき、従来型の施設よりも特設型の施設の方で、ポジティブな指標が多く記録されました。この事実から「犬のストレスを軽減するためには、従来型の施設デザインはなるべく避けなければいけない」という教訓を引き出すことができます。この教訓は特に、「犬を庭先につなぎっぱなしにしたまま餌だけを与える」という飼育スタイルをとっている家庭にとって重要となるのではないでしょうか。 犬を繋ぎっぱなしにする飼育スタイルは著しく福祉を損なっている  「特設型の施設」から得られた知見を参考にすると、具体的には以下のような改善策が推奨されます。
犬の福祉向上のヒント
  • 庭先に係留する【改善策】室内に迎え入れてあげる。それができない場合は、犬が環境との距離を自分の裁量で決められるような位置に移してあげる。例えば、人の往来が激しい玄関につなぐのではなく、奥まった場所に移してあげるなど。ポイントは、多くの動物にとってストレスの原因になる「予測不能性」をできるだけなくしてあげること。
  • 餌だけ与える【改善策】マッサージやトリックによるプレイタイムなど、毎日必ず人間とのふれあいの時間を設ける。また犬が退屈しないよう、おもちゃを頻繁に交換してあげる。
  • ろくに散歩をしない【改善策】毎日必ず散歩をしてあげる。身体的な運動はストレスの解消につながると同時に、適度な疲労感を産んで無駄吠えなどの不適切な行動を減らしてくれる。他の犬と交流できるドッグランなども有効。犬の幸せとストレス