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犬にコアワクチンを打った後の抗体価の推移

 犬にコアワクチンを接種した後、ウイルスに対する抵抗力が時間とともにどの程度減少するのかに関する検証が行われました(2016.11.10/日本)。

詳細

 報告を行ったのは、動物の臨床検査を業務とする「マルピー・ライフテック株式会社」の調査チーム。日本全国67の動物病院からサンプリングされた106頭(全て24ヶ月齢以上)と、8ヶ所の繁殖施設からサンプリングされた72頭(全て24ヶ月齢以上)を対象とし、「ジステンパーウイルス」(CDV)、「犬パルボウイルス2型」(CPV-2)、「犬アデノウイルス1型」(CAdV-1)、「犬アデノウイルス2型」(CAdV-2)に対するワクチンを接種した後、血清中の抗体価がどのように変化するのかを調査しました。直近の接種からどの程度時間が経過しているかによって「接種後11ヶ月以下」(81頭)、「12~23ヶ月」(50頭)、「24~35ヶ月」(22頭)、「36ヶ月以上」(25頭)という4つのグループに分けたところ、有効抗体価の保有率に関して以下のような変動が見られたといいます。
有効抗体価
血清が抗原と反応する能力を保てる限界の希釈倍数のこと。今回の調査では「CDV→160倍以上」、「CPV-2→40倍以上」、「CAdV-1→40倍以上」、「CAdV-2→40倍以上」が有効抗体価(免疫力を保っている状態)とされた。
ジステンパーウイルスの有効抗体価と接種からの経過時間との関係
犬パルボウイルス2型の有効抗体価と接種からの経過時間との関係
犬アデノウイルス1型の有効抗体価と接種からの経過時間との関係
犬アデノウイルス2型の有効抗体価と接種からの経過時間との関係
コアワクチンの有効抗体価と接種からの経過時間との関係
 これらの数値から調査チームは、以下のような傾向を浮き彫りにしました。
抗体価と経過年数の関係
  • どの疾患に対するワクチンも、時間の経過とともに効果が薄れていく
  • ワクチン接種後2年以降、CDV、CAdV-1、CAdV-2の抗体価の変動係数が大きくなる
  • CDVやCPV-2に比べ、CAdV-1の抗体価がワクチン接種後早期に減少する
犬コアワクチン接種後の経過年数による抗体保有状況の推移

解説

 「接種後2年してから抗体価の変動係数が大きくなる」という事実は、ワクチンを接種してからおよそ2年が経過すると、犬が保有する免疫状態の個体差が大きくなることを意味しています。この傾向は特にCDV、CAdV-1、CAdV-2で顕著なようです。ワクチン接種の頻度に関しては、「接種後12~23ヶ月における4種ワクチンの有効抗体価率が75.5%」(4頭のうち1頭は最低1つの病原体に対して十分対抗できない)という数字と考え合わせる必要があるでしょう。現在、日本国内では「年1回」の混合ワクチン接種が慣習となっていますが、これが過剰接種なのかそれとも妥当な頻度なのかは、その犬が置かれている状況によって意見が別れるところです。
 「CAdV-1抗体価がワクチン接種後早期に減少する」という現象の背景には、過剰な副反応を避けるため、ワクチンに2型(CAdV-2)が使用されていることが関係しているようです。タイプが似たCAdV-2に対する抗体をCAdV-1に対する抗体として便宜的に代用しているため、機能の劣化が早まってしまうのでしょう。
 すべてのワクチンに関し「時間の経過とともに効果が薄れていく」という傾向が確認されましたので、直近のワクチン接種から数年が経過している犬は、ウイルスに対する免疫力をすでに失っているという可能性も考えられます。この可能性は特に、過去のワクチン接種で副反応を経験したり、免疫抑制剤や抗癌剤等を長期間服用しているなど、再接種が難しい犬において配慮しておかなければなりません。調査チームは病気予防法として、病原性が比較的高いとされる「CAdV-1」に対する抗体検査を推奨しています。抗体検査で免疫力の低下が確認された場合、飼い主は伝染病が発生しやすい空間共有イベントに犬を連れて行かないといった注意が必要となるでしょう。 犬の伝染病予防 犬のワクチン接種