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ライム病を引き起こす病原性ボレリアが札幌に潜伏

 人間にも犬にも発症することで知られるライム病を引き起こす細菌の一種「病原性ボレリア」が、札幌周辺に潜伏している危険性が示されました(2016.5.25/日本)。

詳細

 報告を行ったのは、北海道・帯広畜産大学の調査チーム。2011年、札幌市において病原性ボレリアの一種「ボレリア・ガリニ」(B.garinii )によるライム病の症例が報告されたことを受け、 2012年~14年の間、札幌市内にある3つの動物病院を訪れた合計314頭の犬を対象に、血清抗体率を調査しました。その結果、全体の10.2%に当たる32頭が病原性ボレリアに対して陽性反応を示したといいます。またダニによる刺咬歴がある犬の陽性率が16.7%だったのに対し、ない犬は6.7%、都市部の陽性率が7.6%だったのに対し、郊外は13.3%だったとも。これらの数値は統計的に有意ではなかったものの、犬が知らないうちにダニに刺されている可能性を示唆するものです。
 こうしたデータから研究チームは、病原性ボレリアによるライム病は人間にも犬にも感染する人獣共通感染症なので、それを媒介するマダニが生息している場所を散歩すると、犬のみならず飼い主も危険にさらされると指摘しています。 Serological survey of Borrelia infection of dogs in Sapporo, Japan, where Borrelia garinii infection was previously detected

解説

 今回札幌で行われた調査では、ほとんどの犬が症状を示していませんでしたが、だからといって楽観視できる病気でもありません。2014年夏、カナダ出身のシンガーソングライター、アヴリル・ラヴィーンがこの病気に掛かり、5ヶ月もの間寝たきりになった事は記憶に新しいところです(→出典)。
 以下はライム病に関する基本情報です。
ライム病について
  • 病原体細菌(スピロヘータ)の一種「病原性ボレリア」。北米では「ボレリア・ブルグドルフェリ」(Borrelia burgdorferi)、ヨーロッパでは「ボレリア・ブルグドルフェリ」、「ボレリア・ガリニ」(B.garinii)、「ボレリア・アフゼリ」(B.afzelii)。日本では今のところ「ボレリア・ブルグドルフェリ」の報告がないため、「ボレリア・ガリニ」と「ボレリア・アフゼリ」が主流だと推測される。また1995年に北海道で発見された新種「ボレリア・ミヤモトイ」(B.miyamotoi)の可能性も否定出来ない。
  • 媒介生物保菌動物としてのネズミや野鳥、および媒介動物としてのマダニ(Ixodes属)。日本では、東北から北海道にかけて生息している「シュルツェ・マダニ」(I.persulcatus)が媒介の主犯と考えられる。東北から北海道にかけて生息している「シュルツェ・マダニ」(I. persulcatus)
  • 疫学日本国内における最初の報告例は1986年。流行地域は本州中部以北で、特に北海道や長野県に多い。ライム病は4類感染症に定められており、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない。感染症法施行後、現在までに数百人の患者が報告されている。
  • 症状【StageI】
    マダニに刺された箇所を中心とする遊走性紅斑が数日から数週間持続し、リンパ節腫脹、筋肉痛、関節痛、頭痛、発熱、悪寒、倦怠感といったインフルエンザに似た症状を伴う。
    【StageII】
    病原体が血液を介して全身に広がり、皮膚、神経、心臓、眼、関節、筋肉などに炎症を引き起こす。
    【StageIII】
    細菌を駆逐できない状態が数ヶ月~数年持続すると、体の各所に関節炎、皮膚炎、脳脊髄炎といった重度の慢性症状が現れる。
  • 治療遊走性紅斑にはドキシサイクリン、髄膜炎などの神経症状にはセフトリアキソンといった抗菌薬が有効とされる。ただしドキシサイクリンは歯の着色を引き起こす危険性があるため、成長期の犬に使用してはならない。また抗菌薬ですべての細菌を駆逐できるわけではなく、数週~数ヶ月間隔で症状がぶり返すこともある。
  • 予防マダニが活発に動く春~初夏、秋頃に、マダニの生息地に近づかないようにする。マダニの生息地は、本州中部以北では主として山間部、北海道では山間部のほか平地。マダニの衣服への付着が確認できる白っぽい服を着用し、ズボンの裾は靴下の中に入れるようにする。犬に対しては防ダニ薬を使用する。刺された場合、無理にマダニを引き剥がそうとすると刺口が皮膚の中に残ってしまう危険性があるので、必ず病院の皮膚科で処置してもらう。米国のFDAで認可されたワクチンはあるが、国内では流通していない。またワクチンの効果に関してもいまだに議論がなされている。
犬のマダニ症 ライム病(IDWR) 犬と猫の感染症と寄生虫病(インターズー)