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ロシア漁船経由の犬の不法持ち込みによる狂犬病の侵入リスク

 ロシア漁船経由の犬の不法持ち込みによる狂犬病の侵入リスクがシミュレーションされました(2016.5.23/日本)。

詳細

 調査を行ったのは、東京大学を中心としたチーム。2000年代初頭から目立ち始めたロシア漁船による犬の不法持ち込みは、狂犬病に罹患した犬がウイルスを北海道内に持ち込む危険性をはらんでいます。そこで調査チームがさまざまなデータを元にして狂犬病の侵入リスクをシミュレーションしたところ、1998~2005年に限定すると「7.7回/10億」(0.0077%のさらに100万分の1の確率)、2006~2015年に限定すると「8.33/100億」(0.00833%のさらに1000万分の1の確率)という極めて低い値が出たと言います。また北海道に到着する漁船の年間数を過去の「7,092回」と想定すると「18,309年に1回」、現状の「1,106回」と想定すると「1,084,849年に1回」という計算になるとも。
 こうしたデータから研究チームは、ロシア漁船による犬の不法持ち込みに対する取り締まりによって、北海道への狂犬病の侵入リスクが過去の59分の1にまで減少し、現在は極めて低い値に抑えられているという結論に至りました。ただし決して予断は許さず、今後もロシア極東部における狂犬病の動向注視、入国リスクが高い地域における野生動物の管理、ロシア船員への勧告、警告サインの設置、日常的なパトロール、漁港の定期的検査といった防御網を敷き、ウイルスの侵入を食い止めていく努力が必要だとしています。 Japan through the illegal landing of dogs from Russian fishing boats in the ports of Hokkaido, Japan

解説

 今回の調査では、海岸を経由した狂犬病の侵入リスクがシミュレーションされましたが、侵入ルートはまだ他にもあるようです。2016年1月、香港で奇妙な事例が報告されました。
 2015年12月28日、香港に暮らす男性が家族旅行で北海道へと出発した。空港(おそらく新千歳空港)に到着し、観光バスに乗ろうとしていたところ、香港に残してきた義理の母からメールが。内容は「ペットのミニチュアシュナウザーが見当たらない」というものだった。まさかとは思いつつも旅行用スーツケースを開けたところ、案の定そこには犬の姿があった。ツアーガイドの提案ですぐに犬を税関に引き渡し、香港へ返す手続きを完了。香港の漁農自然護理署によると、日本政府から連絡が入り、12月30日の時点で犬は無事に本国に送還されたという。 ejinsight
 この話が本当だとすると、香港と日本の両国が、空港のエックス線検査において揃いも揃って犬の存在を見落としたことになります。にわかには信じがたい話ですが、散発的に報告される逸話から類推すると、全くありえない話では無いようです。
空港のずさんなチェック
  • アメリカ 2015年に米国土安全保障省が実施した内部調査により、乗客を装ったおとり捜査員が機内に持ち込もうとした武器やまがい物の爆発物を、検査官が見落とした確率は95%に達した(→出典)。
  • 大分空港 2015年8月1日、全日空機内に乗客がハサミを持ち込んでいたことが発覚した。搭乗前の検査で見落とした可能性があるという(→出典)。
  • 新千歳空港 2016年1月12日、北海道の新千歳空港で機内に持ち込みできないハサミを持った女性が保安検査場を通過した。検査場でハサミを確認した係員が持ち込みできると判断して女性を一度通過させたが、エックス線検査装置の画像を見ていた別の係員が、女性の通過後、確認したハサミの他に持ち込みできない大きさのハサミも荷物に入っていたと指摘。ハサミが持ち込めないと説明すると、女性は搭乗を取りやめたという(→出典)。
 上記したように、空港における手荷物チェックは完璧とは言い難く、エックス線に写りやすい金属ですら見落とされてしまうようです。シルエットがぼんやりとしか映らない犬の場合、検査機械に赤外線センサーが付いていない限り、全く黙殺されるか「ぬいぐるみだろう」と即断されてそのまま見過ごされてしまう可能性が大いにあります。つまり、狂犬病を持った犬が入国してしまう危険性が常にあるということです。 空港における手荷物のエックス線検査  現在日本においては、犬を飼っているすべての飼い主が年に1回狂犬病の予防接種をすることが義務付けられています。こうした縛りに対し「日本は50年以上狂犬病の清浄国だ。予防注射なんて全く必要ない!」と主張する人がいますが、空港におけるずさんなチェック体制から考えると、いささか極論の感を否めません。一方、頭ごなしに「毎年受けろ」と命じてくる国の姿勢も極端です。2015年に「世界小動物獣医協会」(WSAVA)が更新したワクチン接種ガイドラインでは、「法律で毎年接種を規定している国は、その接種間隔に明確な根拠を示せないのであれば、最新情報に合わせて改定すべき」と助言しています。予防注射の効果が3年持続するという事実は世界的な常識になりつつありますので、日本政府もしっかりとしたエビデンス(医学的な証拠)を犬の飼い主に示し、接種間隔を適切なものに改変していく必要があるでしょう。 狂犬病について 犬のワクチン接種