トップ2016年・犬ニュース一覧3月の犬ニュース3月23日

犬が腎臓の感染症を嗅ぎ分けて飼い主に警告

 犬の鼻が重篤な腎臓の感染症を嗅ぎ分け、妊婦と赤ん坊の両者が一命を取りとめるという出来事がありました(2016.3.23/イギリス)。

詳細

 2015年、イギリス・サウスヨークシャー州に暮らすアルハンナ・バトラーさんは、妊娠20週頃にひどい背中の痛みに襲われ、病院を受診しました。しかし検査では重大な疾患が見つからず、「小柄な体型で妊娠したから背骨がびっくりしているのでしょう」といったあいまいな説明を受けて帰宅します。その後、痛みを抱えながらも騙し騙し生活していた彼女は、バトラー家のペット「ケオラ」(Keola)の様子がどうもおかしいことに気がつきました。ケオラは執拗に彼女の顔を見つめ、何かを言いたげな雰囲気でクンクン鳴くことが多くなったと言います。「犬はあなたに何かを伝えたがっているのよ」という母親からの助言もあり、もう一度病院を受診した彼女は、病院に着くやいなや気絶して倒れこんでしまいました。検査の結果は、薬剤耐性菌による両腎臓の感染症。もう少し遅かったら命を落としていたかもしれないほど重篤なものでした。危機一髪のところで一命をとりとめたアルハンナさんはその後無事に回復し、元気な赤ん坊を産むことができました。 Mirror(2016.3.21) アルハンナさんの息子リンカーンに寄り添う秋田犬のケオラ

解説

 このエピソードは非常に不思議な話ですが、「犬が細菌尿を嗅ぎ分けることができる」という予備知識を持って見直してみると、すんなりと受け入れることができるのではないでしょうか。2016年、アメリカの「Pine Street Foundation」を中心とした研究チームは、犬が細菌を含んだ尿の匂いを嗅ぎ分けることができるかどうかに関する実験を行いました。チームは16週間かけて687人(3ヶ月~92歳)から大量の尿サンプルを集め、事前に細菌尿の匂いを覚えこませた犬たちに嗅がせて弁別正答率を調査しました。結果は以下です。なお「感度」とは「陽性のものを正しく陽性と判定する確率」、「特異度」とは「陰性のものを正しく陰性と判定する確率」のことを指します。
犬の細菌尿弁別能力
  • 大腸菌(10万cfu/mL)250回テスト | 感度99.6% | 特異度91.5% | 蒸留水で尿濃度を1~0.1%(1,000~100cfu/mL)に希釈しても正答率は変わらなかった
  • 腸球菌50回テスト | 感度100% | 特異度93.9%
  • クレブシエラ50回テスト | 感度100% | 特異度95.1%
  • 黄色ブドウ球菌50回テスト | 感度100% | 特異度96.3%
 訓練された犬の間で正答率に大きな差が見られなかったことを受け、研究チームは犬の鼻は極めて高い正答率で細菌尿を嗅ぎ分けることができるとの結論に至りました。先に紹介した「ケオラ」がアルハンナさんの感染症に気づけたのは、彼女の泌尿器から発せられる微妙な異臭を嗅ぎ取ったからなのかもしれません。 犬の病気探知能力 Detection of Bacteriuria by Canine Olfaction