詳細
報告を行ったのはイギリス・オックスフォード大学のローレント・フランツ氏を中心とした研究チーム。チームはまずアイルランドにある「ニューグレンジ」と呼ばれる先史時代の遺跡で発掘された犬の内耳の骨から核DNAを採取し、ゲノム解析を行いました。そして現代に生きる605頭の犬から採取した核DNAを解析して系統樹を作成したところ、「ヨーロッパ系」(ニューグレンジ犬やゴールデンレトリバーなど)と「アジア系」(シャーペイやチベット、ベトナムあたりの野犬)という2つの大きな系統に分かれたと言います。
次に、この遺伝的な開きが生じた時期を特定するため、遺伝子変異率を設定して逆算したところ、およそ6,400~14,000年前が分岐の時期である可能性が強まったと言います。こうしたデータから調査チームは、人間はまず14,000年前頃にアジアで犬を家畜化し、その後、犬とともにユーラシア大陸を横断してヨーロッパに移住した分派が、そこで改めて家畜化を進めたのではないかという「家畜化二元説」に行きつきました。
Dogs may have been domesticated more than once
Genomic and archaeological evidence suggest a dual origin of domestic dogs
解説
犬の家畜化が起こった場所に関しては様々な説が乱立しており、「アジア起源説」(ストックホルム王立研究所の遺伝学者ピーター・サボライネン氏)や「ヨーロッパ起源説」(カリフォルニア大学の進化生物学者ロバート・ウェイン氏)などがありました。今回の調査結果はちょうど、上記2人の仲を取り持つような性質を持っています。しかし当調査で全ての謎がすっきりと解けたわけではありません。例えば、考古学者たちがドイツで発見した約15,000~16,000年前のものと思われる犬の遺骨などです。
アジアで犬の家畜化が起こったのが14,000年前だとすると、それより1,000~2,000年も早い段階でヨーロッパに犬がいたというのはおかしな話です。この矛盾に関しては「遺伝子の変異率がもともと間違っているのではないか?」といった可能性が考慮されていますが、確証を得るためにはドイツの遺骨と同じくらい古い時期の遺伝子サンプルがもっと大量に必要であるとされています。現在、世界中の学者達が手持ちの遺骨サンプルを1ヶ所に集積し、犬の起源を探ろうとする大規模な共同プロジェクトが進行中ですので、「家畜化二元説」が証明される日はそう遠くないかもしれません。