トップ2016年・犬ニュース一覧12月の犬ニュース12月15日

日本国内における犬のてんかん有病率調査

 日本国内における犬のてんかん有病率に関する大規模な統計調査が行われました(2016.12.15/日本)。

詳細

 調査を行ったのは日本獣医生命科学大学のチーム。2003年4月から2013年3月の期間、一次診療施設からの紹介という形で附属病院を訪れた犬を、2015年に「国際獣医てんかん委員会」(IVETF)が発表した最新知見に基づいて分類し、各ジャンルにおける犬たちの有病率を統計的に計算しました。用語解説と主な結果は以下です。
用語解説
  • てんかん自然発生的なてんかん発作が24時間以上の間隔をもって最低2回起こる
  • てんかん発作脳内における同時発生的で治療を行わなければ悪化する傾向を持つ神経細胞の過活動
  • 特発性てんかん最初のてんかん発作が生後6ヶ月~6歳の間に起こり、発作間の身体検査(神経・血液・尿)で異常が見つからない
  • 構造性てんかん最初のてんかん発作がいつであるかにかかわらず、MRI検査や脳脊髄液検査で異常が見つかる
  • てんかん重積てんかん発作が5分以上続くか、2回以上の発作間で完全に意識が回復しない
  • 群発発作てんかん発作が24時間で2回以上起こる
  • 生存期間最初のてんかん発作から死亡した日(もしくは最後の経過観察)まで
  • 寿命生まれた日から死んだ日(もしくは最後の経過観察)まで
国内犬のてんかん統計
  • てんかん患犬=358頭(全体の1.9%)
  • 特発性てんかん=172頭(0.9%)
  • 構造性てんかん=76頭(0.4%)
  • 分類不能=110頭(0.6%)
  • 生存期間中央値●全体(100頭)=10.1年
    ●特発性(65頭)=10.4年
    ●構造性(35頭)=4.5年
  • 寿命の中央値●全体(100頭)=13.0歳
    ●特発性(65頭)=13.5歳
    ●構造性(35頭)=10.9歳
日本のてんかん犬における生存期間と寿命の中央値  てんかんの患犬全体では「1ヶ月の発作回数が0.3回以上」、そして特発性てんかんの患犬では「1ヶ月の発作回数が0.3回以上」および「焦点性発作」が、生存期間短縮のリスクファクターになっていたそうです。
Retrospective epidemiological study of canine epilepsy in Japan using the International Veterinary Epilepsy Task Force classification 2015 (2003-2013): etiological distribution, risk factors, survival time, and lifespan
Hamamoto et al. BMC Veterinary Research (2016) 12:248, doi: 10.1186/s12917-016-0877-3

解説

 「特発性」と「構造性」という2つのグループを比較したり、海外において報告されているデータと比較した所、共通点や相違点がいくつか浮かび上がってきました。具体的には以下のような項目です。

有病率

 二次診療機関の患犬におけるてんかんの有病率は1.9%、特発性てんかんは0.9%、構造性てんかんは0.4%でした。海外で報告されたデータでは、二次診療施設におけるてんかん有病率が1~2.6%、一次診療施設における特発性てんかん有病率が0.5~5%とされていますので、有病率に関しては国にかかわらず比較的近いのではないかと推測されています。

生存期間

 「特発性」と「構造性」という2つのグループを比較したところ、体重、性別、不妊手術の有無、てんかん重積や焦点性発作から全般性発作への発展の有無、複数の抗てんかん薬使用、寿命に統計的な違いは見られなかったといいます。しかし生存期間に関しては、構造性(4.5歳)よりも特発性(10.4歳)の方が顕著に長い値を示しました。この現象は海外でも確認されており、特発性が9.2~10.5年、構造性が3.4~5.8年と報告されています。特発性てんかんの方は、発作さえうまくコントロールできれば、病気を抱えていない犬と同じくらい長生きできるのではないかと考えられています。
生存期間に関わる因子
  • 発作回数と生存期間 てんかんの種類が特発性だろうと構造性だろうと「1ヶ月の発作回数が0.3回以上」のときに生存期間が短縮してしまうという関係性が発見されました。発作コントロールの重要性がうかがわれます。
  • てんかん薬と生存期間 特発性てんかんの患犬においては、複数の抗てんかん薬を併用することと生存期間との間に関係性は見いだされませんでした。
  • 構造性てんかんと生存期間 構造性てんかんを病因によって「奇形性」、「炎症性」、「悪性新生物性」に分類した所、生存期間はそれぞれ「80%超の犬で5年以上」、「54.1ヶ月」、「13.7ヶ月」になったと言います。サブクラスによって生存期間が大きく異なるため、構造性てんかんを抱えた犬においてはMRI検査や脳脊髄液検査によって病因を特定することが重要であると推奨されています。
  • 焦点性発作と生存期間 特発性てんかんの患犬においては、焦点性発作を起こすことが生存期間の短縮につながっていました。見た目が激しい全般性てんかん発作に比べて「大した事ない」と思われがちな小さな発作ですが、EEG(脳波記録)などを利用して他の疾患と慎重に鑑別する必要があるとされています。
     発症率に関しては、構造性てんかんグループが13%だったのに対し特発性てんかんグループが30%と高い値を示しました。上記したように焦点性発作は生存期間の短縮につながるリスクファクターですので、特発性てんかんを抱えた犬においては発作のコントロールがとりわけ重要であると指摘されています。

寿命

 寿命の中央値に関し、当調査では全体で13.0歳でしたが、海外では7.0~7.6歳とかなり短く報告されています。おそらく、海外では安楽死が選択されることが多く、また小型犬よりも平均寿命が短い大型犬の飼育率が高いからでしょう。安楽死に関しては、海外は38%(24/63頭)~60%(49/81頭)と報告されているのに対し、当調査内ではわずか4%(4/100頭)でした。

SUDEP

 当調査では「SUDEP」(てんかん性突然死)による死亡例が2頭確認されました。詳細なメカニズムはよくわかっていませんが、人医学の分野では強直間代性発作、発作のコントロールがうまくできていない、若い、多剤併用といった要因を抱えている患者に多いとされています。犬を対象とした今回の調査でも、若い(6.1歳と7.3歳)、発作のコントロールがうまくできていない(週に1回以上の割合で発作)、少なくとも1つの抗てんかん薬に対し無反応といった特徴が見いだされました。人間でも犬でも似たような傾向が確認された形になります。なお過去には秋田犬とラブラドールレトリバーの報告例がありますが、当調査ではボストンテリアとミックス犬でした。犬種的な偏りはあまりないのかもしれません。 犬のてんかん