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低血糖探知犬の発するアラートはあまり信頼できない

 実生活における低血糖探知犬の能力を調査したところ、意外に多く誤ったアラートを発していることが明らかになりました(2016.12.12/アメリカ)。

詳細

 調査を行ったのは、オレゴン健康科学大学のチーム。低血糖探知犬と共に暮らしている1型糖尿病患者に協力してもらい、犬の発するアラートがどの程度正確であるかを検証しました。低血糖の定義は「70mg/dL未満」で、患者のうち8人(4歳~48歳)は「CGM」と呼ばれる血糖値の常時監視システムを装着しています。
CGM(持続血糖測定)
 血糖値を一定間隔で24時間以上継続的に測ること。外部のモニタシステムと、腹部等の皮下に留置して組織間質液中の糖濃度を電気信号に変換する電極から構成される。
 犬が発したすべてのアラートを集計したところ、血糖値が正常範囲内(70~179mg/dL)にある時、犬が誤ってアラートを発することはあったものの、実際に低血糖状態に陥った時のアラート率は平常時の3.2倍に達したといいます。しかし、合計45回の低血糖状態において犬が正しくアラートを発した確率は36%、また犬がアラートを発したとき、実際に低血糖状態に陥っていた確率(陽性的中率)はわずか12%に過ぎなかったとも。さらに、探知犬とCGMの両方を利用している患者の低血糖状態(合計30回)を調べたところ、73%ではCGMの方が犬よりも22分早くアラートを発したそうです。 夜中に主人の低血糖を知らせる探知犬の様子  こうした結果から調査チームは、必要のない時にアラート発したり、逆に必要な時にアラートを発しなかったりといったことが多いため、低血糖のモニタリングを探知犬だけに頼るのは最善策では無いと警告しています。
Reliability of Trained Dogs to Alert to Hypoglycemia in Patients With Type 1 Diabetes

解説

 患者の多くは、低血糖状態の事前警告を期待して犬を入手したといいます。しかし今回の調査により、実生活における犬の検知能力は、訓練状況における成績よりもかなり下がってしまうという可能性が示されました。普通に考えると、期待ほどの働きをしない犬に対してがっかりする人が増えるはずです。しかし低血糖探知犬に対する満足度や探知能力に対する信頼度を、1から10までの10段階で患者たちに評価してもらったところ、平均はそれぞれ「8.9」と「7.9」という高い値を示したと言います。実際の検知率は度外視し、「犬がそばにいてくれる」という状況自体が、患者に対して安心感を与えているのかもしれません 生徒とともに教室内に入ることを許可された低血糖探知犬のシュガー  低血糖状態において犬が正しくアラートを発した確率がわずか36%だったというデータは無視できません。残りの64%は低血糖を見逃しているということですので、最悪の場合は突然の低血糖発作で患者が昏倒し、床に頭を打ちつけてしまうという状況も考えられます。理想は、調査チームが提唱しているように、犬とCGM(血糖値常時監視システム)を併用することになるでしょう。犬が患者の心理面をサポートすると同時に、CGMが体調面をサポートするという体制が整っていれば、糖尿病患者の生活の質(QOL)が一段と高まってくれるものと期待されます。また、探知犬が四六時中飼い主と行動を共にする必要もなくなるため、犬の福祉向上にもつながるでしょう。
 近年は、低血糖状態の人間の呼気中で「イソプレン」(isoprene)と呼ばれる化学物質が急増することが確認されていますので(→出典)、こうした知見を応用した低血糖発作感知器の開発にも期待がかかります。 低血糖探知犬について