詳細
調査を行ったのはカリフォルニア大学デイヴィス校の研究チーム。デイヴィス校の獣医療サービスセンターを訪れたイングリッシュブルドッグ37頭、アメリカ全土からサンプリングされた87頭、その他の国からサンプリングされた15頭を対象として大規模な遺伝子調査を行ったところ、犬種の遺伝子多様性が極めて狭くなっていることが判明したと言います。具体的には、父系遺伝子をたどっていくと、そのほとんど全てが1つのメジャーハプロタイプと3つのマイナーハプロタイプを含み、母系遺伝子をたどっていくと、そのほとんど全てが3つのメジャーハプロタイプと2つのマイナーハプロタイプを含んでいるなどです。こうした多様性の欠落は、同腹仔同士を交配させたときと同じ程度だったとのこと。
ブルドッグは頭が極端に大きく、帝王切開なしではほとんど出産出来ないと言われています。また遺伝的疾患の発症率も高く、呼吸器系の疾患を筆頭に、股関節の異常、白内障、心臓の先天的障害、自己免疫系疾患など、数え出すときりがないほどです。論文の筆者は、こうした不健康な体を作り出した責任者は、特徴的な外見にばかりこだわって犬を繁殖してきたブリーダー、およびそのブリーダーの生計を成り立たせている消費者だと指摘しています。ブルドッグという犬種を数々の苦しみから救い出し、遺伝病の少ない健全な身体に戻すためには、もはや他の犬種から血統を導入するしかないだろうと警鐘を鳴らしています。
A genetic assessment of the English bulldog
Niels C. Pedersen, Ashley S. Pooch, et al.2016 VetTimes, July 29, 2016
Niels C. Pedersen, Ashley S. Pooch, et al.2016 VetTimes, July 29, 2016
解説
論文の中では、ブルドッグという犬種から何らかの疾病と関わりのある劣悪遺伝子を排除し、外観そのものを変化させるためには、現存の遺伝子プールでは小さすぎるとの指摘がなされています。こうした指摘に対して強硬に反発しているのが、「純血主義者」と呼ばれる一部のブリーダーたちです。彼らは大昔に考案された犬種標準にこだわり、少しでも標準体型から逸脱した時点で、それはもはやブルドッグでは無いといった考え方を信奉しています。そして「現存の遺伝子プールで十分である」という根拠の怪しい主張を展開しながら繁殖を続けています。帝王切開しなければ出産できないということ自体が、すでにかなり不自然な状態であることには気づいていないようです。
一方、犬の福祉を考慮し、先取的に他犬種とのアウトクロスを行っているブリーダーたちもいます。例えばスイスでは2013年以降、主として家畜動物に適用される「5つの自由」という概念がペット動物にまで押し広げられるようになり、「犬や猫といったペットたちは不快、痛み、病気や怪我から逃れる自由を有する」という考え方をもつブリーダーが徐々に増えつつあるとのこと。その結果、ブリーダーの中には「Olde English Bulldogge」(コンチネンタルブルドッグ)という犬種を用いて、自主的にブルドッグの遺伝子多様性を拡大する人も出てきているということです。
ブルドッグの犬種標準(JKC)