トップ犬の繁殖犬の交配・妊娠・出産犬の妊娠

犬の妊娠に関する基本と注意~妊娠期の区分から母犬の栄養やケアまで

 交配日から58~63日程度(9週間)続く犬の妊娠期について詳しく解説します。「十月十日」(とつきとうか)と言われる人間の妊娠期間に比べるとずいぶん短いですね!
注意とお願い  ここでは犬の繁殖に関する客観的な事実を述べていますが、興味本位や暇つぶしでの繁殖は推奨しておりません。漠然と「子犬がほしいなぁ~」と考えている方は、犬や猫の殺処分について犬や子犬の里親募集も、あわせてご一読ください。

犬の妊娠期

子宮内膜と受精卵による着床の模式図  犬の妊娠期間は交配日から58~63日程度(9週間)です。犬の場合、交尾によって精子が卵子にたどり着き無事に受精(じゅせい)が完了しても、受精卵が母胎の胎盤(たいばん)に着床(ちゃくしょう)するまでに更に3週間かかります。着床までの約3週間は母犬にとって流産しやすい不安定な期間ですので、他の犬との激しい遊び、階段の上り下り、ジャンプを要する運動、狭い場所をくぐるような動き(おなかを地面にこするので)、入浴(滑って転ぶ危険性があるので)等は極力控えるようにします。
 妊娠の確認は、排卵後25日頃に触診によって行ったり、超音波検査によって行ったりします。また胎子の骨格がはっきりする50~55日頃にはレントゲン検査も可能です。
 なお、犬の妊娠期間9週を3週ずつに区分けすると、おおむね以下の3期に分かれます。

妊娠前期(約3週間)

妊娠前期では食欲不振、嘔吐などつわりに特有な症状を見せる  妊娠前期(妊娠1~3週)の兆候としては、味覚の変化(今までのエサを受け付けなくなったり、全く違った食材に好みが変化するなど)、食欲の不振、時として嘔吐(おうと)など、いわゆる「つわり」の症状が見られることがあります。受精卵は妊娠21日目(約3週)くらいに着床(子宮内膜と結合)するのが一般的です。
 なお小型犬ではまれに、妊娠15~20日頃、そけい部(腿の付け根付近)から子宮が皮下に飛び出す「子宮ヘルニア」を発症することがありますので、下腹部をよく観察するよう注意します。

妊娠中期(約3週間)

妊娠中期には乳腺が張ってきておなかがふくらんでくる  妊娠中期(妊娠4~6週)の兆候としては、5週目ころから乳腺(にゅうせん)が張ってきて、6週目頃からおなかも膨(ふく)らんできます。また非活動的になり、気分が落ち込んだように見えることもあります。妊娠前期に低下していた食欲が35日目くらい(妊娠5週目あたり)から復活し、胎子が成長を始める40日目以降は体重が増え続けます。
 なお、4週目頃になると外陰部から半透明の粘液を出すことがありますが、このおりものに悪臭があったり赤黒い色がついていたら、子宮捻転による流産の疑いがありますので、かかりつけの獣医さんにご相談ください。

妊娠後期(約3週間)

妊娠後期にはおなかがパンパンにふくらみ、触ると子犬の胎動を感じることができる。  妊娠後期(妊娠7~9週)の兆候としては、8週ごろからおなかを触ると胎児の胎動(たいどう)を感じることができるようになり、乳腺・おなかともにパンパンに張った状態になります。
 なお、犬がブルセラ・キャニスに感染している場合、妊娠45~55日頃になると突然流産することがあります。母犬は流産後も1~6週間くらい保菌状態になっていますので、流産胎子、胎盤、排出物(おりもの、尿、乳汁など)はゴム手袋とマスクを着用し、すばやく処置することが必要です。

妊娠期における母犬の栄養

 妊娠期間中の母犬の栄養状態は生まれてくる子犬たちの健康に多大なる影響を及ぼします。また生後3~8週にかけて子犬に乳歯(にゅうし)が生え、いわゆる乳離れ(ちばなれ)が起こります。この約1月半の期間を利用して徐々に母犬の食事を減らし、妊娠前の分量に近づけて肥満を予防します。
妊娠前後の母犬の栄養目安
  • 交配前後→必要カロリー数を満たす
  • 妊娠期日以降→妊娠前の20%増し
  • 妊娠期日以降→妊娠前の50%増し
  • 出産して日以降→妊娠前の2倍
  • 出産して日以降→妊娠前の3倍
 なお近年は出生前期(しゅっしょうぜんき, prenatal period)と呼ばれる、動物の胎子が生まれる前における発達段階の重要性が明らかになってきています。
母体内における発達段階「出生前期」  げっ歯類の研究では、妊娠中にストレスの多い環境にさらされたメスから生まれた子は、生まれた後、より情動的になったり過剰な行動を見せるようになったといいます。またラット、マウス、ハムスターに関する報告では、子宮で2頭のオスに挟まれていたメスは、そうでないメスより攻撃的であり、闘争行動においてはメスよりオスに近かったそうです。さらに、ラットが子宮内でリンゴ溶液にさらされると、成長後はその風味に対する嗜好性を示すとも言われます。
 こうした影響がイヌ科動物においてもあるかどうかは不明ですが、生まれてくる仔の性格や生理学的な反応に、妊娠中における母体の状態が強く影響している可能性があることは、心にとどめておいたほうがよいでしょう。妊娠中の母犬には十分な栄養を与え、ストレスのかからない生活環境を提供してあげることに越したことがないということです。

妊娠期における母犬のケア

 妊娠期間中も適度な運動は必要です。分娩(ぶんべん)に必要な体力を維持し、難産になるのを防ぐ役割があります。ただしおなかが大きくなってきたら階段など高低差のある場所や狭い場所に近づけるのは控えましょう。また激しい運動も控えます。
 ブラッシングは小まめに行うようにします。こうすることで全身の血行を良くし、常に母体を清潔に保つことができます。入浴は出産予定日の一週間前までなら構いませんが、それ以後は控えるようにします。また子犬をなめる口元、乳房のある胸から腹にかけて、子犬を出産する肛門周辺の被毛は短くカットしておくと衛生的(えいせいてき)です。
 妊娠中の予防注射は基本的にはNGです。混合ワクチンなどは交配の1~3週くらい前までに済ませ、母犬の免疫力を高めると同時に、生まれてくる子犬の移行免疫(いこうめんえき=母乳を介して受け取る免疫)を強化するようにします。なお、ノミダニ予防薬に関しては妊娠中や授乳中でも使用できるものがありますので、かかりつけの獣医さんに相談した上で使用します。 犬のブラッシング 犬のトリミング
母性による攻撃性
妊娠中や偽妊娠中に見られる母性による攻撃性  犬の攻撃行動の分類の中に「母性による攻撃性」というものがあります。
 これは妊娠中や偽妊娠中、出産間近や出産後に期間限定で起こるもので、母犬は自分の子や、子と見なしたおもちゃを離れた場所から見張り、うなり声による警告、歯をむき出す、歯を当てる、噛み付こうとする、などの攻撃行動を見せてきます。
 また脅威が強くなりすぎるとパニックを起こし、子犬やおもちゃを食べてしまうことがありますので、飼い主は面白半分で母犬を刺激しないよう、十分な注意が必要です。
 通常、こうした母性による攻撃性は、子犬が離乳するときや偽妊娠状態が終わると同時に終息します。 犬の攻撃行動