トップ有名な犬一覧歴史や伝説になった犬犬オールドドラム

オールドドラム

 不朽の名句として有名な「犬への賛辞」が誕生するきっかけとなった犬「オールドドラム」について解説します。

オールドドラムとは?

 オールドドラム(Old Drum)は、不朽の名句として有名な「犬への賛辞」が誕生するきっかけとなった犬。
 ミズーリ州のキングズヴィルで優秀な猟犬として名を馳せていたアメリカンフォックスハウンドのオールドドラムが銃殺されたのは、1869年10月28日のことでした。犯人は牧羊家のレオニダス・ホーンズビィで、敷地に入ってきたオールドドラムを野良犬だと思い、羊たちを守るために殺したというのがその言い分でした。
オールドドラム裁判でバーデン側についた弁護士ジョージ・グラハム・ヴェスト  しかしこの説明に納得しなかったのが、オールドドラムの飼い主で、ホーンズビィの義理の弟に当たるチャールズ・バーデンです。川べりに捨てられた愛犬オールドドラムの死体を見た彼は、悪意を持って殺されたという証拠を見つけ、早速この事件を裁判に持ち込みます。そこで白羽の矢が立ったのが、当時ミズーリ州のセダリアで弁護士をしていたジョージ・グラハム・ヴェスト(右写真)です。
 バーデン側についたヴェストは「この裁判には絶対に勝つ。もし負けるようなことがあれば、ミズーリ中の犬に謝って回る」と、強い意気込みを公言したそうです。その言葉を実行するかのように、裁判における最終弁論で彼は、後に「犬への賛辞」(Eulogy of the Dog)と呼ばれるようになる不朽の名句を産み出しました。この最終弁論のおかげもあり、結局ヴェストは勝訴し、その後ミズーリ最高裁判所で開かれた控訴審にも勝っています。
 1頭の犬の死から始まったこの裁判は、いつしか「オールドドラム裁判」と呼ばれるようになり、後の世に強い影響力をもつ判例として歴史に残ることとなりました。
犬への賛辞
陪審員の皆さん
世の中で最高の友人だと思っていた人が、自分に牙を向き、敵になることがあります。
たくさんの愛情を持って育ててきた息子や娘が、親に対して不義理を働くことがあります。
厚い信頼を抱いていた一番近くにいる最愛の人が、裏切り者になることもあります。
それまで大事に持っていたお金だって、一番必要なときに限って、人の手から離れていきます。
それまで保ってきた名声だって、ちょっとした軽はずみな行動で失われることがあります。
成功しているときには、膝まづいて栄誉を称えてくれていた人が、失敗するや否や、真っ先に悪意のこもった石を投げつけてくることがあります。
さて、この欲にまみれた世界において完全に無私無欲で、決して人を見捨てず、決して恩知らずな行動を示さない唯一の友人がいます。それは犬です。
陪審員の皆さん
栄えているときも貧しいときも、健康なときも病めるときも、犬は常に傍らにいてくれます。
犬は、主人のそばにいることができるのならば、冷たい地面の上で寝ることだって厭(いと)わないし、冷たい冬の風に吹かれたり、激しく吹きつける吹雪に晒されることにだって耐えてくれます。
犬は、たとえエサを持っていなくてもその手にキスをしてくれますし、世知辛い世の中でできた傷口を舐めてくれます。
主人がたとえ貧しくても、眠っている間は、まるで王子様を守るように見張りに付いてくれます。
友人が誰一人いなくなっても、犬だけはそばにいてくれます。
富が消え去り、名声が地に落ちても、まるで天空をめぐる太陽のように常に一定なのは、犬の愛なのです。
もし命運が主人を見放し、友人も家もない打ち捨てられた人間のようになったとしても、忠実な犬が唯一望むものは、命が尽きるまで主人のそばに付き添い、彼を危険や敵から守ることなのです。
そのうち死が主人を優しく抱擁し、今わの際がやってきて、冷たい地面に横たえられる時が来ます。
他の全ての友人は目をそらし、その場を立ち去るかもしれません。
しかし、彼の墓の横には常に、高貴な犬の姿があることでしょう。
頭を足の間に置き、悲しみと同時に用心深さをたたえた目を大きく見開いて。
死者に対してさえも忠実なもの、それが犬なのです。
George Graham Vest Missouri Digital Heritage EULOGY OF THE DOG(原文)

オールドドラムの写真

 以下でご紹介するのは、不朽の名句として有名な「犬への賛辞」が誕生するきっかけとなった犬「オールドドラム」の写真です。 ミズーリ州ウォレンズバーグにあるオールドドラムの銅像
 歴史に残る「オールドドラム裁判」を記念し、ミズーリ州ウォレンズバーグのジョンソン郡裁判所前に銅像が建立された。1958年に建てられたこの銅像には、全米42州からのほか、アメリカ合衆国代33代大統領ハリー・トルーマンからも募金が寄せられた。写真の出典はこちら
ケンタッキー州にある「犬の賛辞(抜粋)」の銘板
 ケンタッキー州のオーエンズボロにある「犬への賛辞」(Eulogy of the Dog)の銘板では、散文の一部が抜粋されて掲げられている。タイトルには「Tribute to a dog」という表現が使われているが、内容は同じもの。写真の出典はこちら