犬の肺気腫の病態と症状
犬の肺気腫とは、肺内部でガス交換を行う機能単位である肺胞が異常にふくらみ、壊れてしまった状態のことです。肺胞(はいほう)は酸素と二酸化炭素を入れ替える小さな袋状の器官で、肺全体のおよそ80%を占めています。
正常な肺胞には適度な弾力性があり、膨らんだ後に自力で元の大きさに戻ろうとします。しかし肺気腫にかかった肺胞では、壁がペラペラに劣化して弾力性も失われているため、取り込んだ空気を循環させたり、効率よく外に逃がすことができません。その結果、息を吐き出すときにハーハーという苦しそうな息遣いをしなければ、肺の中の空気を排出できなくなってしまいます。
人医学の領域では、この肺気腫と慢性気管支炎をあわせて「慢性閉塞性肺疾患」(まんせいへいそくせいはいしっかん, COPD)と呼んでいます。重症化した場合は、常に酸素ボンベを持ち歩くような生活を余儀なくされることも少なくありません。
犬の肺気腫の症状としては以下のようなものが挙げられます。
犬の肺気腫の症状としては以下のようなものが挙げられます。
犬の肺気腫の主症状
- 呼吸困難
- よだれをたらす
- 運動を嫌がる
- 皮下気腫(胸や首の下に空気がたまる)
犬の肺気腫の原因
犬の肺気腫の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主の側であらかじめ原因を取り除いておきましょう。
犬の肺気腫の主な原因
- 気管支の異常 腫瘍や炎症など、気管支に異常があると、その気管支に連なる肺胞に病変が生じ、肺気腫になることがあります。
- 急激な呼吸運動 激しい咳や激しい呼吸など、急激な呼吸運動によって肺胞に圧力が加わり、破壊されてしまうことがあります。
- 慢性的な有毒ガスの吸引 長期にわたり、生体にとって不要なガスを吸い続けると、肺胞に異常をきたして肺気腫になることがあります。人間の場合で言うとタバコですが、副流煙(ふくりゅうえん)を吸わされる周囲の人やペットにも何らかの被害が生じてもおかしくありません。
犬の肺気腫の治療
犬の肺気腫の治療法としては、主に以下のようなものがあります。
犬の肺気腫の主な治療法
- 基礎疾患の治療 気管支炎や腫瘍など、別の疾病によって肺気腫が引き起こされている場合は、まずそれらの基礎疾患への治療が施されます。
- 対症療法
一度破壊された肺胞を修復することはできませんので、症状がそれ以上悪化しないようにする保存療法が行われます。具体的には運動を控えたり、ペットの周りでタバコを吸わないなどです。
タバコに関しては、2006年の調査で犬が肺疾患にかかる可能性を高めることが示唆されています。30匹のヨークシャーテリアを対象として観察したところ、喫煙者のいる家庭で暮らしていた犬の方に、「炭粉沈着症」、および「尿中コチニン」の両方が検知されたといいます。「炭粉沈着症」とは、免疫細胞の一種であるマクロファージの細胞質に炭素が溜まった状態のことで、肺疾患の原因とされているものです。炭素沈着症のほかにも鼻腔癌やアトピー性皮膚炎の発症率を高めるというデータもありますので、犬の前でタバコを吸わないことはもはや鉄則です。